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内臓のかがみ

皮膚に発疹ができた時、内臓に異常があるのではないかと考えたことはありませんか?
皮膚の変化と内臓の異常が関わるケースはそれほど多いわけではありませんが、全く関係ないわけでもありません。
皮膚と内臓の関係で最も心配なのが、内臓に悪性腫瘍があるかどうかです。
さまざまな皮膚病が内臓悪性腫瘍に関連して出現しますが、大きく分けると次の4項目になります。
①内臓悪性腫瘍が直接皮膚に浸潤して生じる変化
②内臓悪性腫瘍を生じやすい遺伝性の皮膚病
③腫瘍随伴症状と言われる皮膚の変化
④環境因子により内臓悪性腫瘍と皮膚症状が表れる現象
これらが内臓悪性腫瘍に関連する皮膚症状です。
しかし、目の前にある皮膚病変が本当に内臓悪性腫瘍と関連があるかどうかを科学的に証明するのは困難です。
具体的なことは別の機会にご紹介致します。
一方、肝臓の機能が悪くなると皮膚に変化が表れることがあります。
皮膚の血管が広がる血管拡張というものが高い頻度で引き起こされます。
その結果「クモ状血管腫」と言われる発疹が顔や首、胸に現れます。
欧米人に多いのですが、アメリカドル紙幣を光に透かしたときに見られるような状態が皮膚表面に引き起こされることがあり、紙幣状皮膚(ダラースキン)と言います。
手のひらの親指や、小指の付け根部分が真っ赤になる手掌紅斑という症状も、肝硬変やアルコール性脂肪肝の方に高い確率で認められます。
全身の皮膚が、生体色素のビリルビンにより、黄色・黄土色を呈する黄疸という症状もあります。
頻度は必ずしも高くありませんが、時に皮膚には内臓の異常が反映されます。
気になることがあれば皮膚科を受診してください。

2024年04月02日

デュピュイトラン拘縮??

こぶのようなものが手のひらや指にでき、皮膚がひきつれて徐々に伸ばしにくくなる。
このような病気があるのをご存じでしょうか。
デュピュイトラン拘縮という病気かもしれません。
手のひらの皮膚の下には「手掌腱膜」という膜があり、靭帯のような役割を担っています。
この手掌腱膜が固くなり、こぶのような結節を作り、周囲の血管や神経を巻き込んで縮まっていくことにより、手のひらの変形が起こると考えられています。
デュピュイトラン拘縮は薬指や小指にできることが多いのですが、他の指や足の裏にできることもあります。
痛みは伴いません。
なぜこういうことが起こるのか、まだよく分かっていませんが、外傷などによる局所の血液の滞りによって、線維芽細胞という細胞が増えることが原因なのではないかと考えられています。
50~60歳代の男性に多く、背景に糖尿病や肝硬変、慢性アルコール中毒が存在することが多いようです。
他にも肩関節周囲炎、慢性肺疾患、痛風などが関わっているという報告もあります。
実は、この病気は皮膚科の病気ではなく、整形外科の病気です。
腫瘍や腱の断裂・癒着などと区別しなければいけないのですが、整形外科医が診察すれば、比較的簡単に診断できます。
自然によくなることがほとんどなく、手術が必要になります。
病名にあるデュピュイトランとは、1777年フランスに生まれた外科医の名前に由来します。
ナポレン1世の時代に活躍した人です。
ナポレオンと権力を争ったルイ18世や、次のシャルル10に仕えた侍医でもあります。
ちなみにルイ18世はデュピュイトラン拘縮の背景要因かもしれない痛風が悪化し、さまざまな病気が起こり、呼吸困難となり衰弱し亡くなったそうです。

2024年03月01日

かゆいからかいてしまう?

鳥肌が立つ、手に汗握る、冷や汗をかく、赤面するという言葉があり、心の状態と皮膚の変化は密接に関係しています。
皮膚は常に心理状態の影響を受けて変化すると言えます。
疲労、ストレスによりニキビやアトピー性皮膚炎が悪化したり、じんましんが出たりすることを経験された方は、少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。
アトピー性皮膚炎においては、かゆみは切っても切り離せない症状の一つです。
緊張や怒りを感じた時に、かく行為が起こる場合があります。
かくことにより、気が紛れたり、落ち着いたりして精神的な快感が得られます。
それが続くと無意識にかく行為が習慣化し依存する場合があります。
かゆみを感じなくても、かかないとイライラし、かくことを止められない状態になることがあるのです。
もちろん、乾燥した皮膚におけるかゆみ神経の過敏さや、アレルギーの関与といった理由でかゆみが生じ、かく行為につながるのは言うまでもありません。
しかし、かく行為の中には「癖」になってしまっている部分もあるのです。
アトピー性皮膚炎のみならず、その他の皮膚病の中にも、無意識にいじって症状をこじらせたという状況に遭遇することがあります。
傷が治ってきた時にできる「かさぶた」をつい取ったり、ニキビをつぶしたりして、症状をこじらせたことはないでしょうか。
「癖」を治す薬というものはなかなかありません。
治療する上で重要なのは本人がその行為を自覚することです。
現代医療はとかく薬に頼りがちです。
さまざまな薬が開発されたからこそ、われわれは病気に打ち勝つことができているのは確かです。
しかし、自分自身の力で制御、克服しなければいけないこともあるのです。

2024年02月06日

手荒れの話

手がカサカサしたり、かゆくなったりすることはありませんか。
それは手湿疹かもしれません。
手をよく使う人に多くみられ、日常生活で触れるさまざまな刺激によって生じる皮膚の炎症です。
家事や仕事で水や洗剤などを使う頻度が多いと、皮膚表面に存在する潤いを保つ成分(皮脂、角質細胞間脂質、天然保湿因子)が減り、湿疹が生じやすくなります。
空気が乾燥する秋から冬に悪化することが多いのですが、夏の暑い時期に悪化する人もいます。
どうしてでしょうか。
その理由の一つに食事が影響しているかもしれないのをご存じでしょうか。
私たちが普段食べている食品の中には、微量ながら金属を含むものが存在します。
豆類や海藻、ホウレンソウ、カボチャ、レタス、カキ、チョコレート、紅茶など、さまざまな食品に微量金属は含まれています。
この微量金属は口の中の粘膜や消化管で吸収され、汗や涙、尿などで排せつされます。
金属に対してアレルギーを持っている人は、汗や涙に含まれる微量金属に反応し、一種のかぶれを起こしてしまうことがあります。
皮膚の中でも特に手のひらの皮膚は、汗を分泌する器官がとても密に分布し、しかも汗に含まれる金属の濃度が高い部位です。
つまり、夏に手湿疹が悪化してしまうのは、金属アレルギーが関わっている可能性があるのです。
これまで、アクセサリーや時計などで金属かぶれを起こしたことがある人、汗をかいて湿疹の症状が悪くなったことがある人は、金属アレルギーの検査を受けてみてもいいかもしれません。
検査はパッチテストという検査を行います。
金属の試薬を皮膚に貼り、人工的なかぶれの症状が出現するかどうかを調べる検査です。
ニッケルやコバルト、クロムといった微量金属は、アレルギーを起こす頻度の高いものですが、先にあげた食品以外にも、ほとんどの食品に含まれています。
また、漢方薬やサプリメントにも金属を多く含むものもあります。
従って完全に金属を除去するのは難しいと言えます。

2024年01月04日

冬に多い皮膚疾患

気温の低下に伴い、増加する皮膚トラブルの一つにしもやけがあります。
しもやけは凍瘡と言います。
気温が4~5度、1日の気温変化が10度以上になる晩秋から冬に発症し、乳児や小児の耳、ほお、指先、足先、手のひら、足の裏に出ます。
冷たい風に当たったり、はだしで遊んだり、冷水で水遊びしたりすると生じることが多いようです。
症状は小指くらい、もしくはそれ以下の少し盛り上がった赤黒い斑点が散発するタイプと、指全体が赤く腫れるタイプがあります。
かゆみや痛みを伴い、温まるとかゆみが増します。
時には水ぶくれができたり、ただれが生じたりします。
凍瘡になる背景には遺伝的な要素があると考えられています。
特に母親がかつて凍瘡を経験したかどうかが重要です。
寒さにさらされると血液の流れは低下しますが、その回復能力が低下しているのではないかと考えられています。
凍瘡は暖かくなれば自然に治りますが、できてしまうとつらいものです。
そこで大切なのは予防です。
手足や耳の防寒に気をつかうことはいうまでもありません。
外出時に耳当て、手袋、マスクを着用することは大切です。
ぬれたり、湿ったりしたまま冷えるのはよくありません。
靴下や手袋がぬれたら、早めに取り換える必要があります。
きつめの靴を履いたり靴下を重ねたりすると、血液の循環が悪くなるので注意してください。
また料理に使う植物油には凍瘡の治療に用いるビタミンEやニコチン酸トコフェロールなど栄養分がたくさん含まれています。
寒さに向かう時期に、調理に植物油を多めに取り入れると予防になります。
凍瘡ができてしまったら、ステロイド外用剤を使用したり、ニコチン酸トコフェノールを服用したりします。
お風呂で十分温めてビタミンE含有軟こうを擦り込んでマッサージすることも有効です。

2023年12月01日

乾燥肌について

寒い季節がやってきます。
気温の低下に伴い増加するのか乾燥による皮膚トラブルです。
皮膚の潤いはいくつかの要素によって決まります。
まずは皮脂です。
これは主に皮脂腺という器官から分泌され、皮脂膜を形成します。
さらに「セラミド」をはじめとする「角質細胞間脂質」や「天然保湿因子」の主成分である「アミノ酸」がかかわっています。
これらにより水分蒸散を防ぎ、バリア機能・保湿機能が発揮され皮膚の潤いが保たれます。
皮膚表面に存在する角質層の水分含有量は通常15%ですが、10%を下回ると、急激に外界からの刺激に弱くなります。
かゆみを感知する知覚神経の神経線維は正常では表皮と真皮の間までしかのびていませんが、アトピー性皮膚炎や老人性乾皮症などの皮膚で、その乾燥が進むと、表皮の中まで侵入してきます。
そのため、普通では問題とならないような軽い刺激にも反応してかゆみが起きやすくなります。
入浴するときに服を脱ぐとかゆくなるという訴えや、体が温まるとかゆくなるという訴えはこのためです。
かゆみが起こると、どうしてもかいてしまいますが、そうすると、皮膚に湿疹が生じ、皮膚のバリア機能がさらに悪化してしまいます。
日常生活で注意する必要があるのは、こする行為です。
「あか」や皮膚表面のカサカサを落とすという目的や、長年の習慣から、ゴシゴシと体をこすって洗う方が多いようです。
このこする行為によって皮脂が失われ、皮膚表面の角質層もそぎ落とされてしまいます。
つまり、こすればこするほど、水分が蒸散して皮膚の乾燥が誘発され、外からの刺激が入りこみやすい状態を作り上げてしまいます。
入浴時には、タオルを使用せず、せっけんを手で泡立てて優しく洗うのか一番です。
入浴後に保湿剤を塗るのも役立ちます。
市販されている保湿剤にはかゆみを止めるために入れてある成分が刺激になることがあり、注意が必要です。
保湿を目的にした入浴剤の使用も有効です。
漢方の生薬をもとに作られている入浴剤もあります。

2023年11月04日

乾皮症について

乾皮症とは、皮膚の表面がカサカサと白く粉がふき、ひび割れを生じるような乾燥した状態を言います。
以前の日本では、ほとんど問題にはならなかったものです。
しかし、ここ20、30年の間に、生活様式の欧米化や住宅の高気密化が進み、乾皮症が冬を中心に日常的にみられるようになりました。
時期を同じくして、アトピー性皮膚炎の患者さんの数も急増しています。
赤ちゃんの皮膚は生まれてしばらくの間は、母親のホルモンの影響で、毛穴から分泌される皮脂の量が多く乾燥はしていません。
しかし、生後3~6カ月ごろからそのホルモンの影響がなくなり、皮脂があまり分泌されなくなります。
そのため、乳児や小児の6、7割は冬に乾皮症を生じてしまいます。
思春期に向かい、皮脂の量が増えてくると、いったん乾燥した状態は解消します。
しかし女性は25歳ごろから、男性でも50歳を過ぎると、皮脂の分泌が減り、再び皮膚の乾燥が強くなります。
冬になり、腰や脚を中心に皮膚がカサカサし、かゆくなるのはこのためです。
さらに年を重ねると、皮膚表層の角質のアミノ酸の量が低下し、乾燥が強くなります。
特に冬場はほとんどの人がいわゆる「老人性乾皮症」の状態になります。
冬の乾燥対策として重要なのは、室内の湿度を高めることです。
加湿器を使用したり、洗濯物を室内に干したりし、湿度を50%以上に保つのが望ましいでしょう。
また、入浴時に洗浄力の強いせっけんやボディーソープの使用は控えめにした方がいいと考えられています。
ナイロンタオルを使用し、体をゴシゴシこするのはよくありません。
入浴後にワセリンなどの保湿・保護剤を使用するのは有効です。

2023年10月12日

皮膚と食事

皮膚の健康を保つ上で、食事は重要です。
皮膚は網目状に張り巡らされたコラーゲンの繊維によってその弾力が保たれています。
コラーゲンの主な原料はアミノ酸です。
そして、このコラーゲンを合成するには良質なタンパク質とビタミンCが不可欠です。
アミノ酸のひとつであるタウリンは肝臓の機能を高め、皮膚に有害な物質を除去するのに有効な成分とされており、それを多く含む魚介類の摂取はお勧めです。
ビタミンCはメラニン色素の変化を防いだり、コラーゲンの形成と維持を調節したりする効果を持ち、鉄分の吸収を助ける働きもあります。
通常の食事をしていればビタミンCが不足することはまずありませんが、偏食している場合や抗生物質を服用している場合、腸内細菌が変化し、ビタミンCの合成が低下する場合があります。
ビタミンCが低下・欠乏すると皮膚の内出血や粘膜からの出血が起こることがあります。
ビタミンCを多く含む食品はイチゴやブロッコリー、赤ピーマン、芽キャベツなどがあります。
ビタミンAやEは抗酸化ビタミンと呼ばれ、保湿成分の生成に関与し、皮膚の老化を防ぐ働きがあります。
ビタミンAが不足すると皮膚表面が厚くなり、乾燥肌になります。
ビタミンEには皮脂の酸化を防ぐ効果や、血行を良くする作用があり、肌荒れ防止に大きな役割を果たしています。
ビタミンAはウナギやレバー、卵黄、牛乳に、ピタミンEはアーモンドやタラコ、筋子、煎茶に含まれています。
ただし、水溶性のビタミンCと違って、ビタミンAやEは脂溶性で、尿で排出されないため、過剰な摂取は控えなければいけません。
細胞を正常に働かせるにはタンパク質を十分摂取することが必要で、ビタミンやミネラルも取る必要があります。
バランスの良い食事を心がけることが一番です。

2023年09月04日

フケのお話

頭がかゆくなったり、「フケ」が気になることはありませんか?
フケとは頭皮から落ちる古くなった皮膚細胞と毛穴から出る皮脂が混ざったものです。
「フケ症」とは、フケが増えて目立つ状態をさし、医学的には「脂漏性皮膚炎」の軽症をさしています。
あるアンケートによると、男女ともに5割くらいの人がフケが気になると答えています。
フケ症の原因はさまざまです。
ストレスや食生活の乱れ、睡眠不足などが絡み合っています。
皮脂から作られる成分が皮膚の新陳代謝の速度を早めて、炎症を引き起こすという報告もあります。
この皮脂から作られる成分は、紫外線や皮膚に存在する微生物の影響を受けて作られます。
微生物の中でも、「マラセチア・フルフル」というカどの一種が注目されています。
カビを抑える目的に抗真菌薬を配合したシャンプーも市販されています。
シャンプーの回数は、かゆみが出ない、フケが落ちないという症状を目安に決め、各種フケ止め用シャンプーを使ってみて、自分にあったものを使用すればいいでしょう。
ただし、どんなシャンプーでも肌に合わずにかぶれることがあるので、注意してください。
また、生活リズムを整え、暴飲暴食を避けてバランスのとれた食事をとり、睡眠不足にならないように注意するということは必要です。
ビタミンB群を含むレバー、ホウレンソウ、魚介類、豆、卵などがお勧めです。
また、イモ類、海草、キノコなど食物繊維を多く取ることも効果的です。
一方、糖分の多い菓子類、ナッツ、コーヒーは皮脂の分泌を促し、悪化させる可能性があるので控えめにしてください。

2023年08月18日

とびひの話

「とびひ」という病気をご存じでしょうか?
これは伝染性轢織といって、細菌の感染によって起こる病気です。
原因となる菌は主に黄色ブドウ球菌と溶連菌です。
お子様に発生しやすい病気ですが、その始まりは虫刺されやカプレ、湿疹、すり傷など日常ありふれた皮膚トラブルであることが多いのです。
とびびの症状ですが、
黄色ブドウ球菌によるものは水疱(みずぶくれ)やびらん(皮がむけた状態)が主で、溶連菌によるものは痴皮(カサブタのようなもの)が主です。
黄色ブドウ球菌は鼻の中に存在しているため、鼻の周囲は、とびひが起こりやすい部分です。
また脇の下や脇腹など、汗が多く、摩擦が加わりやすい部分にも、よく見られます。
とびひの治療は抗生物質の内服・外用が基本となります。
かつては、水疱などの病変を消毒するのが一般的でしたが、消毒によるカプレや痛み(お子様にとっては大変な苦痛)、さらには内服薬・外用薬でほとんどが治るという事実から、行わないようになってきました。
プールや湯船につかるといった水の中に入る行為は避けた方がいいのですが、患部をシャワーで清潔にすることは積極的に行った方がいいのです。
患部をガーゼや包帯、ぽんそうこうなどで常に覆っていると、その温度・湿度を上げ、治りを遅らせますので、痛みがなくなったら極力開放するのが望ましいといえます。
とびひが良くなってもすぐに再発するお子様が、時にいらっしゃいます。
そういったお子様の中には、鼻をいじる癖を持っている方が多いのです。
心当たりがある方は注意してみてください。

2023年07月01日

毛虫皮膚炎

近年、毛虫による被害が多いように思われます。
毛虫皮膚炎と言われる皮膚の炎症は、ガの幼虫である毛虫の毒を持った毛=有毒毛に触れることで発症します。
皮膚炎を起こす代表的な毛虫は、ドクガ類とイラガ類の幼虫です。
有毒毛は「毒針毛」と呼ばれており、成虫の尾の部分や、幼虫の脱皮した抜け殻にも付着しています。
そのため毛虫との接触だけではなく、成虫や木の葉、枝に残る幼虫の抜け殻との接触でも毛虫皮膚炎は起こります。
殺虫剤散布後の死骸の毒針毛が風に舞い、皮膚に付着すると、直接幼虫との接触がなくても皮膚炎を発症することがあります。
通常ドクガは草原の中で生思しており、山や草原に入らない限り、被害に遭うことはありません。
ところが、時にドクガは大発生することがあります。
草原に隣接する道路を越え、住宅地や公園に侵入してくることがあるのです。
毒針毛に触れた直後には、かゆみと少し膨れたような赤みが出現します。
そして接触した翌日以降になると、その部分に数多くの赤い丘疹(プツプツ)が現れます。
もしドクガに接触してしまった、あるいは接触したかも知れない時は、擦ってはいけません。
まず、弱い流水で毒針毛を洗い流します。
ガムテープに毒針毛を付着させ除去するのも有効です。
不思議なことに、毛虫による皮膚炎を生じた患者さんの約80%は、毛虫が原因であるとの認識がないという調査結果があります。
これは典型的な症状である、赤いプツプツは接触直後ではなく、l日か2日たってから出現するからかもしれません。
また、死骸の毒針毛が、知らず知らずに付着して炎症が起きる場合のように、直接接触した記憶がないのも、その理由かもしれません。

2023年06月01日

これからの季節に向けて

気温が上がり、日差しが強くなるこれからの時期、屋外では植物が生い茂り、虫などの小動物も繁殖します。
素肌にアクセサリーを付けたり、素足にサンダルを履いたりする機会も多くなるのではないでしょうか。
薄着になり、お肌を露出すると外部からの刺激にさらされて「かぶれ」や「虫刺され」などの皮膚病が発生しやすくなります。
ネックレスや指輪などのアクセサリー、時計、ジーンズの留め金などに含まれることが多い、ニッケルやコバルト、皮革中のクロムなどの微量金属は汗により溶け出し、かぶれを起こしやすくします。
ズボンのポケットに入れたコインが原因で太ももにかぶれを起こしたという事例、携帯電話との接触で耳や頬にかぶれを起こしたという事例があります。
これらも微量金属が関わっていると考えられます。
金属以外にもレインコートに含まれるはっ水加工処理剤やゴム長靴の加工剤、スニーカーの接着剤、水泳やダイビングのときに使用するゴム製ゴーグル、ウエットスーツ中の物質も、かぶれを起こす可能性があります。
草かぶれの中で、強い皮膚症状を起こすウルシかぶれは有名です。
このウルシにかぶれたことのある人は、マンゴーやカシューナッツ、ピスタチオ、イチョウにかぶれることがあります。
また、キクもかぶれの原因になることがあります。
キクにかぶれた人はヒマワリやタンポポ、ダリア、ヨモギ、レタスにかぶれることがあります。
医者いらずとして有名なアロエも、時としてかぶれを起こします。
これからの季節、何かと皮膚トラブルは起こるものです。
ささいなことでも皮膚科を受診されることをお勧めします。

2023年05月02日

紫外線

私たちが住む地球の表面には、紫外線(UV)から赤外線まで波長の長さの異なるさまざまな光線が太陽から到達します。
中でも、皮膚にとって問題なのが紫外線です。
紫外線は波長の長さから、長波長紫外線(UVA)、中波長紫外線(UVB)、短波長紫外線(UVC)、真空紫外線(VUV)に分けられます。
この波長が短くなればなるほどエネルギー量は大きくなり、皮膚への悪影響が強く出てきます。
短い波長の紫外線(UVCとUVBの一部)はオゾン層と成層圏に吸収されるため、地上に到達するのはUVAとUVBの一部です。
紫外線はビタミンDの生成にかかわっていること、光線治療という医療への応用の2点を除けば有害です。
紫外線量は季節や時間、緯度などで異なり、地面の状態によっても違ってきます。
例えば、5~8月はオゾン層での紫外線吸収が少ないため紫外線量は多くなります。
l日の中でも午前10時から午後2時の紫外線量が最大となります。
皮膚が赤くなる日焼けを「サンバーン」と言います。
一方、黒くなる日焼けを「サンタン」といって区別しています。
サンバーンは強い紫外線に長時間当たっていると起こります。
ヒリヒリした感覚や熱っぽさを伴い、赤く皮膚が腫れ、水ぶくれができます。
ひどくなると、全身のだるさや発熱、脱水症状が起こることがあります。
一時的に免疫力を低下させたり、ニキビやアトピー性皮膚炎を悪化させたりすることもあります。
サンタンは、サンバーンが治まって3日目ころから現れるものと、紫外線を浴びてすぐ黒くなるものの2種類あります。
紫外線を浴び続けると、皮膚の老化が進み、皮膚がんを起こす原因にもなります。
紫外線を普段の生活で完全に避けるのは不可能です。
日焼けした場合は早めの冷却が有効です。
水やスポーツドリンクなどの電解質を補給し、体を休ませることが重要です。

2023年04月03日

暖かくなってきたのに乾燥?

例年になく、雪が降った函館ですが、その雪もようやく解けだし、春を感じられるようになってきたのではないでしょうか?
実は、春先は冬以上に皮膚が乾燥する時期なのです。
冬の間に蓄積した皮膚の乾燥や急激な温度変化の影響と考えられています。
皮膚には外敵から身を守る防御機構が備わっていますが、乾燥すると、その機能は低下してしまいます。
ですからなるべく皮膚を乾燥させない方がいいのです。
さてその潤いを決める要素には次の三つがあります。
それは、皮脂、角質細胞間脂質、天然保湿因子です。
皮膚の一番外側は角質で覆われており、一つ一つの角質細胞はれんがを積み上げたような構造をしています。
毛穴から分泌される皮脂は、角質の表面を包み込んでいます。
そして、角質細胞の間には、セラミドなどの脂質が充満しています。
さらに、角質細胞の中にはアミノ酸を中心とした天然保湿因子が存在しています。
これらの働きによって、皮膚の潤いが保たれています。
皆さんがよくお風呂で行う「あかこすり」は、皮脂を洗い流し、いたずらに皮膚をそぎ落とす行為になってしまいます。
つまり、お風呂でゴシゴシ皮膚をこすることにより、皮膚のバリア機能が著しく低下してしまうのです。
また、長湯をされる方も多いと思いますが、皮膚が水分と接触し続けると、潤いを決定する要素の一つである、天然保湿因子が流れ出てしまいます。
長湯をすることも、実は皮膚の乾燥を助長してしまう危険性があるのです。
お風呂の入り方で乾燥をある程度防ぐことができますので、気を付けてみて下さい。
2023年03月02日

内臓と皮膚、つめ

皮膚に変化が起きた時、「ひょっとして内臓が原因では?」と考えたことがある方は結構いらっしゃるのではないでしょうが。
皆さんが考えるほど、内臓の病気が影響して皮膚に変化が起こるケースは多くおりません。
かといって、内臓と皮膚は全く関係がないわけではありません。
今回はこの関係のごく一部をお話しします。
慢性的な肝臓病の方は、皮膚の血管が広がる「血管拡張」が高い頻度で引き起こされます。
その結果、「クモ状血管腫」と言われる変化が顔や首、胸に現れます。
クモ状血管腫は、赤い点状の部分が中心にあり、その周囲に放射状に蛇行した血管が見られるものです。
あたかも赤いイトミミズがいるような変化です。
肝臓病以外でも、妊婦や経口避妊薬を服用されている方、また甲状腺機能亢進症の方にも見られることがあります。
つめに現れる変化から内臓の病気を推測することもあります。
「ばち状つめ」もしくは「時計皿つめ」、「ヒポルラデスつめ」などと言われる変化です。
つめが指先を包み込むようにこんもりと盛り上がり、太鼓をたたくバチのような形になります。
多くは手足のつめに左右対称に生じます。
肺がんや気管支拡張症、肺気腫、うっ血性心不全、感染性心内膜炎など、慢性的な肺や心臓の病気で見られることが多く、
肺がんでは初期症状の60%に出現すると言われています。
「さじ状つめ」という変化もあります。
これは鉄欠乏性貧血の場合によく見られ、つめがスプーンのように中心がへこんだ形になります。
全身の病気以外にも酸やアルカリ性物質、有機触媒など化学的な刺激で生じることもあります。
皮膚やつめには内臓の異常が反映されることがあります。
気になることがあれば皮膚科を受診して下さい。

2023年02月02日

AGAの話


AGAをご存じでしょうか?男性型の脱毛症を言います。
遺伝や生活環境など、さまざまな要素が関わって発症すると考えられています。
AGAの原因はまだ完全には解明されていません。
しかし、ジヒドロテストステロンという男性ホルモンが影響していることは分かっています。
このジヒドロテストステロンは、テストステロンという男性ホルモンが体内で変化して作られます。
胎児期には胎児の外性器を作る重要な役割を持っています。
ところが思春期以降になると、ニキビや前立腺肥大、AGAなどの症状を引き起こすことがあるのです。
ジヒドロテストステロンは毛根近くの細胞に結びつき、髪の毛の成長のサイクルを乱すため、毛髪の成長が止まってしまいます。
そのため、髪が太く、長くなる前に抜けてしまうのです。
細く短い髪の毛が増えるために、全体的に薄毛が目立つようになります。
AGAは数種類の脱毛パターンで、発症します。
日本人の男性では、まず左右両側の前髪が抜けて額が後退し、さらに頭頂部も薄くなっていくタイプが多くみられます。
AGAの治療は従来、毛細血管を広げて血行をよくする塗り薬が使われていました。
近年は市販されている塗り薬、ミノキシジル(商品名リアップ)が主に使用されています。
最近濃度の高いものが発売されましたが、女性が使用すると顔の毛が多くなることがあり、注意が必要です。
現在は、AGAの治療の中心はフィナスチリド(薬品名プロペンア)という飲み薬です。
これはジヒドロテストステロンが作られる部分を抑える働きがあります。
即効性はありませんが、1年服用した後の有効率(やや有効以上)は80%くらいあります。
ただし、中等度以上の改善は35%程度です。
AGAの進行を止めるという点では、90%以上の効果が確認されています。
ただ毛髪の再生はなかなかすぐには起こりません。
つまり、ゆっくりとした速度で、緩やかに改善するという薬なのです。

2023年01月06日

ロ唇が荒れる

寒い冬はお肌がかさつきますが、同じように口唇が乾く方も多いのではないでしょうか?
口唇は他の皮膚に比べて角質が薄く、皮脂腺もほとんどないため、自力で水分や油分のバランスを調節しうらい場所です。
また、栄養バランスの崩れや水分不足が、口唇の荒れとして現れることもあります。
口唇が乾燥すると、すぐになめてしまう方がいますが、なめると唾液によって保湿成分が奪われ、乾燥を助長してしまいます。
なかなか治らない人の中には、なめることが原因であることが多いのです。
乾燥してもなめないように注意しましょう。
口唇荒れの対策の基本は、乾燥を予防し、保湿をしっかりすることです。
ワセリンやリップクリームなどを使用して、保護膜を作る必要があります。
しかし、リップクリームを必要以上につけると口唇が傷み、くすみや黒ずみの原因になってしまいます。
荒れを引き起こす内面的な原因として、ビタミンB2不足が挙げられます。
ビタミンB2は、納豆やうなぎ、卵、レバーに多く含まれています。
また、イワシやサバ、タラコといった魚介類、チーズや牛乳などの乳製品にも比較的多いです。
睡眠をしっかりとって胃腸の状態を整え、栄養のバランスの良い食事をするように心がはてください。
口唇が荒れて、さらに腫れてしまうような状態になる場合がありますが、これは唾液が原因でかぶれてしまい、口唇の周りに炎症が起きるからです。
小さな子どもに多い傾向があります。
また、アレルギー反応が原因のこともあります。
この場合、特定の食べ物や飲み物、口紅や歯磨き粉などが荒れや腫れの原因になります。
原因が乾燥や外傷ではなく、繰り返し慢性的に口唇の周りが荒れたり、腫れたりする人は「遺伝性血管浮腫」という病気の可能性があるので、皮膚科で診察を受けてください。

2022年12月01日

寒くなる時期に向けて

暑さや寒さの中で、少しでも良いコンディションを維持するために、皮膚は体の最前線でその身を守っています。
皮膚には体の水分バランスを維持し、紫外線や病原菌など外界からの攻撃から体を守る働きがあります。
さらに、体温を調節する働きもあります。
運動などで、体温が上昇すると、血管が拡張し、汗をかき、熱を放散します。
また気温が低いときには、血管や起毛筋の収縮が起こり熱放散を防ぎます。
秋も深まってくれは、いずれ寒い季節はやってきます。
寒くなってよく見られる皮膚トラブルは凍瘡(=しもやけ)です。
手・指・足を中心にかゆみや痛みを伴い、赤紫色をした、腫れや水ぶくれ、タダレが生じます。
凍瘡が起こる背景に遺伝的な要素があると考えられています。
寒さにさらされると血液の流れが低下しますが、その回復能力が低下しているのではないかど推定されているのです。
凍瘡は暖かくなれば自然に治ることが多いのですが、いざ凍瘡になってしまうとつらいものです。
そこで大切なのはその予防です。
寒い時期に手足や耳を防寒することはいうまでもありませんが、ぬれたり、湿ったりしたまま冷えるのは良くありません。
靴下や手袋がぬれたら、早めに取り換えてください。
きつめの靴を履いたり靴下を重ねたりすると、循環が悪くなるので注意が必要です。
凍瘡の治療に用いるビタミンEやニコチン酸トコフェロールなどは寒くなる前に予防的にやや多めに摂取しておくことが有効です。
料理に使う植物油には、これらの栄養分がたくさん含まれています。
昨今は塩分や油分の摂取を控えるようになっていますが、取りすぎないも良くありません。
寒さに向かう時期に、調理に植物油を多めに取り入れると予防になります。

2022年11月01日

顔・耳に帯状疱疹

子供の頃、水ぼうそうにかかったことがある人は多いと思います。
水ぼうそうが治ってもその原因ウイルスが体の神経組織(神経節)に残り、潜伏してしまいます。
ちょっとしたきっかけ、例えば疲れやストレス、風邪をひいた後など、免疫力が低下すると、潜伏していたウイルスが活性化し、痛み、水ぶくれ、赤みを皮膚や粘膜に生じさせることがあります。
これが帯状疱疹です。
帯状疱疹は体の神経の形にそって現れます。
神経は左右2対ありますが、帯状疱疹が出現するのは通常、体の左右どちらか半分です。
よく、体を一周すると命に関わると言われますが、それは迷信です。
さてこの帯状疱疹が耳やその穴周囲の神経にそって出現すると、耳やその近くにある顔の神経にダメージが出ます。
帯状疱疹に加え、難聴や耳鳴り、めまい、さらに顔面神経麻痺が出現することがあります。
これを発見した医師の名前からハント症候群もしくは、ラムゼイハント症候群と呼びます。
耳の周りや耳の中、さらには口の中に痛み(激痛になることもあります)が出て、水ぶくれや赤みがあれは、帯状疱疹の可能性があります。
耳の聞こえが悪くなったり、耳鳴りがしたり、ふらふらとしためまいや顔の半分に麻痺が現れた場合は、ハント症候辞が疑われ、確定診断をするためには耳鼻科を受診する必要があります。
治療は、原因ウイルスに対する抗ウイルス薬、副腎皮質ホルモン薬(ステロイド)の飲み薬もしくは点滴薬を使用します。
入院が必要になる場合もあります。
顔面の麻痺は、その程度によって残る場合もあります。
耳の聞こえ方も完全に戻らないこともあります。
異常を感じたら早めに病院を受診するようにしてください。

2022年10月01日

足の裏に・・・

子供の足の裏にウオノメができたと言って受診される方が結構いらっしゃいます。
しかしこういったケースのほとんどはウオノメではなくイボです。
皆さまはイボと聞いてどういうものを想像されるでしょうか?イボは正確には「疣贅」と言います。
ヒトパピローマウイルスというウイルスよってできる良性の腫瘍です。
ウイルスが原因ですから、足のイボを気にしていじっているうちに、手などに広がってしまうことがあります。
子供に多い「水イボ」 もウイルスの一種が原因ですが「水イボ」とイボは別物です。
「水イボ」はポックスウイルス科の伝染性軟属腫ウイルスという別のウイルスが感染して起こる病気です。
さて、このイボをどのように治療すればいいのでしょうか?
一般的に液体窒素を使ってイボを冷凍凝固させる治療を行います。
ただ、これは少々痛みを伴いますので我慢が必要です。
近年「モノクロロ酢酸」という化学物質を使用し、表面を溶かしていくという治療方法も確立されてきました。
この方法だと、極めて短い時間で処置は終了しますし、痛みはほとんどありません。
これら液体窒素やモノクロロ酢酸を使用する方法は、何回も処置を繰り返し行わなければいけないので、定期的に受診する必要があります。
その他に皮膚を柔らかくする張り薬を使う場合や麻酔をして切り取る手術もあります。
この「イボ」は意外と暗示だけで治ることもあります。
治る、治ると信じていれば、自然になくなってしまうことがあるのです。
そのため全国には「イボとり地蔵」なるものが存在しているそうです。
この現象は、人の免疫力が高まるためと考えられています。
子供の足の裏をちょっとのぞいて見てはいかがでしょうか?

2022年09月01日

おむつかぶれの話

その間に必ずと言っていいほど、おむつをしている部分で皮膚トラブルを経験します。
おむつそのものや、尿や便などの排せつ物によるおむつかぶれは、脂漏性湿疹やカンジダなどといった他の病気も発生しやすい場所で生じます。
おむつは赤ちゃんだけでなく、介護が必要な高齢者の方も使っています。
その中は汗や尿、軟らかい便などで常に湿った状態が続き、皮膚がふやけた状態になりやすいのです。
ここにおむつによる刺激やお尻をふく際の摩擦が加わると、皮膚が傷つき、バリア機能が低下します。
また軟らかい便になればなるほど皮膚はふやけやすく、便の回数が多くなるほど皮膚の炎症が起きやすくなります。
最近は紙おむつを使用する人が圧倒的に多くなっていますが、少数派ながら布おむつを使う方もいらっしゃいます。
また自宅では布おむつ、外出時は紙おむつというふうに使い分ける方もいらっしゃいます。
紙おむつは吸水性に優れて便利ですが、布おむつのような排せつ後の不快感が少なく、赤ちゃんが泣いて排尿・排便を知らせることが少なくなりました。
その結果、保護者が気付くのが遅れ、長時間、尿や便を皮膚に付着させ、長時間空気にさらされないために蒸れてしまい、皮膚炎を生じさせる原因にもなっています。
汗や尿、便で湿った状態が長い時間放置されると、おむつかぶれが起こってしまうので、 時々おむつを外して、ぬれていれば交換するのか大切です。
便で汚れた皮膚を擦りすぎると刺激となり、皮膚炎を助長しかねないので注意が必要です。
ぬるま湯で軽くぬらしたティッシュや柔らかいガーゼでこすらないようにそっと便をぬぐい取り、シャワー浴や座浴をするのか理想的です。
ふき取った後はしばらく乾かすのも有効です。
さらに新しいおむつを着用する前にワセリンなどを塗り、皮膚を保護するのもおむつかぶれ予防には役立ちます。
軽いおむつかぶれであれば、こうしたスキンケアで十分治っていきますが、ひどくなった場合にはステロイドの外用が必要になります。
時にカンジダというカビが発生してしまうので、抗真菌外用剤の使用が必要になるケースもあります。

2022年08月01日

引っかくという行為

皮膚は人体の外側を覆う器官です。
鳥肌が立つ、手に汗を握る、冷や汗をかく、赤面するという表現があるように、皮膚は心と密接に関係し、常に心理状態の影響を受けて変化します。
疲労、ストレスにより、ニキビやアトピー性皮膚炎が悪化したり、じんましんが出没したりすることを経験された方は少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。
嗜癖的掻破行動という言葉をご存じでしょうか。
二十年程前から言われているアトピー性皮膚炎における、引っかく行為の一つとされています。
緊張や怒りを感じた時に、かく行為が起こる場合があります。
かくことにより気がまきれたり、落ち着いたりして精神的な快感が得られます。
それが続くと無意識にかく行為が習慣化し、依存する場合があります。
かゆみを感じなくてもかかないとイライラして、なかなか止められない、制御しがたい状態になることがあるのです。
これを嗜癖的掻破行動と言います。
アトピー性皮膚炎で引っかく行為は症状を悪化させる大きな要因です。
もちろん乾燥した皮膚における、かゆみ神経の過敏さやアレルギーの関与といった理由でかゆみが生じ、かく行為につながるのは言うまでもありません。
しかしかく行為の中には「癖」になってしまっている部分もあるのです。
アトピー性皮膚炎のみならず、その他の皮膚病の中にも無意識にいじって症状をこじらせたという状況に遭遇することがあります。
傷が治ってきた時にできるかさぶたをついつい取ってしまう、ニキピをつぶしてしまう、などです。
癖を直す薬というものはなかなかありません。
治療する上で重要なのは本人がその行為を自覚することです。
現代医療はとかく薬に頼りがちです。
さまざまな薬が開発されたからこそ、われわれは病気に打ち勝つことができているのは確かです。
しかし心の安定があってこその薬です。皮膚のみならず、病気の治療において心の平穏を保つことは重要なことです。

2022年07月01日

イラクサ

皆さんは「イラクサ」 という植物をご存じでしょうか?
私の体験談ですが、高校生の時に、知らずにこのイラクサに触り、大変痛い思いをしたことがあります。
当時、私はハンドボール部に所属していました。
練習の途中グラウンドから飛んで行ったボールを拾いに草むらに行ったのですが、その時誤ってイラクサに触ってしまったのです。
その時の何とも言えない痛みは今でも忘れられません。
イラクサはイラクサ科に属し、本州、四国、九州の低山地に分布する多年草です。
日本では若芽を山菜として食べる地域があります。
ヨーロッパではイラクサの一種を薬用ハープとして使用したり、植物栽培の際、病害虫や雑草の被害を抑えるコンパニオンプランツとして使用したりする習慣があります。
また、戦時中の日本では救荒植物として栽培され、ゆでた葉を乾燥させて食料にしていたそうです。
最近は北海道でも自生するイラクサが見られるようになりました。
イラクサの茎や葉の表面には、うぶ毛のような細いとげがあり、触ると鋭い痛みを感じます。
これはとげの根元に袋があり、その中にヒスタミンやアセチルコリン、セロトニンという物質が含まれているからです。
とげに触り、その袋が破れて液体が皮膚に付着すると痛みを感じるのです。
先日の新聞記事にもありましたが、奈良県にある奈良公園のイラクサは、シカに食べられるのことを防ぐために「毒」のあるとげを多く持つように進化したという研究結果が、奈良女子大学のグループから発表されました。
その研究で奈良公園のイラクサは、奈良県南部のイラクサよりも五十倍以上のとげを持つことがわかったのです。
また奈良公園内のイラクサと奈良県南部のイラクサでシカに食べられやすいのはどちらか、という実験を行ったところ、
奈良県南部のイラクサはすべて食べられたのですか、奈良公園内のイラクサは60%以上も残ったという結果がでています。
千二百年という長い間に、イラクサのシカに対する防御機構が進化・発達したようです。
私の出身は奈良なのですが、高校時代に触ったイラクサは、まさにこの奈良公園のイラクサだったのです。
イラクサば漢名を蕁麻といいます。イラクサに触れると皮膚が腫れることから、蕁麻疹という病名が付けられました。

2022年06月02日

疥癬について

みなさんは「疥癬」という名前の病気をご存じでしょうか?
疥癬は「ヒゼンダニ」というダニの一種が皮膚表層の角質層に寄生して起こる病気です。
強いかゆみを伴い、特に夜間は激しくなります。
かゆみのために睡眠が妨げられるほどです。
寄生したヒゼンダニのメスは次から次へと卵を産み、その数を増やしていきます。
密接な肌の接触によって人から人へと感染していきます。
疥癬の歴史は古く、古代ギリシャ・ローマ時代にその記録があります。
インドにおいては仏門に入る際、疥癬ではないことが条件になっていた時代もあります。
日本では大正六~七年に西日本を中心に疥癬が流行し、「大正瘡」と称された記録があります。
また第二次世界大戦後の昭和二十~二十一年にも大流行しています。
その後、疥癬は、なりを潜めていたかのように思われていましたが、昭和四十年代の高度経済成長期、海外渡航者が増加するに従い、再び現れ始めました。
昭和五十年代後半からは社会的なまん延をもたらし、現在に至っています。
疥癬になると、ほぼ全身にかゆみが出現し、赤く盛り上がった小さなプツプツ(丘疹)が出てきます。
発疹が出現する特徴的な場所は、手の指と指の間や手のひら、手首です。
また、男性では外陰部(陰嚢)に出現する少し大きめのプツプツ(結節)も特徴的です。
これらの場所はヒゼンダ二のメスが産卵する場所なのです。
そのほかに、水ぶくれやうみをもった小さなプツプツ、ヒゼンダニが移動するために生じる「疥癬トンネル」という線状の発疹も見られます。
なお、頭や顔に発疹が出現することはまれです。
病変部から皮膚を取り、ヒゼンダニそのものや虫卵を顕微鏡で確認できれば、疥癬の診断を確定できます。
治療は飲み薬や外用薬です。
大切なのはまず疥癬であることを確定させ、適切な治癒を受けることです。
さらに周囲への感染拡大を防ぐ対策を講じることです。
近年、高齢化が進み、介護を要する高齢者が増加しています。
病院や老人介護施設における疥癬の集団発生が問題になっています。
皮膚のかゆみが現れ、発疹が出現した場合、ひょっとしたら疥癬かもしれません。
自己判断で治療を開始する前に、皮膚科を受診し、診察を受けることをお勧めします。

2022年05月09日

陥入爪

足に生じる皮膚病はいろいろあります。
水虫はその一つですし、ウオノメ、タコもそうです。
さて皆さんは「陥入爪」という病気をご存じでしょうか。
足のつめ、特に第一趾(親指)に多い病気です。
つめの端が皮膚に食い込んで痛みを伴い、時には細菌感染を起こしたり、「過剰肉芽」という出血しやすい「できもの」がつめの横にできたりする病気です。
この病気の原因はさまざまです。
もともとのつめの形が影響する、遺伝的な要素というのは原因の一つですが、それだけではありません。日常生活の中にも原因はあります。
例えば靴。ハイヒールを含め、足の先端に圧力が加わりやすいきつい靴や、厚底靴など不安定な靴、また通気性の悪い靴などが、陥入爪の発生や再発に大きくかかわります。
つめ切りもその方法を間違えると、陥入爪の発生原因や悪化要因になります。
手のつめと同じように、弧を描くような切り方(これが一般的に行われているようですが)をすると、つめの両端が皮膚にくい込みやすくなります。
また既に陥入爪になっていて痛みを伴う場合、つめの両端を深く切ると、一時的に病みはとれます。
しかしその行為が繰り返されると、つめの食い込みがさらに強くなり、細菌感染を誘発してしまいます。
予防と悪化防止の意味から、足のつめは先端を真っすぐに切る、つまり長方形の形をしたつめにするという切り方をしないといけないのです。
陥入爪の治療は、手術、人工つめ、形状記憶合金を使用したつめの矯正などさまざまです。
足のつめの周囲の痛みがとれない場合は、皮膚科、形成外科を受診することをお勧めします。
陥入爪になっているかもしれませんから。

2022年04月05日

高齢者のお肌について

日本では年々高齢化が進んでいます。それに伴い、皮膚トラブルも増加傾向にあります。
高齢者の皮膚の特徴は、皮脂の分泌が減り乾燥してくることや薄くなることなどが挙ぼられます。その結果「小じわ」が、より「粉がふく状態」 になります。
もう少し詳しく言いますと、高齢者の皮膚は皮脂の分泌の低下とともに、「セラミド」をはじめとする「角質細胞間脂質」や、「天然保湿因子」の主成分である「アミノ酸」の合成量が低下します。
その結果、水分を保持できなくなり、皮膚が乾燥して「バリア機能」が低下してしまいます。
皮膚表面に存在する角質層の水分含有量は通常15%ですが、10%を下回ると急激に外界からの刺激に弱くなります。
また、かゆみを感知する知覚神経の神経線経は、正常では表皮と真皮の間までしか伸びていませんが、皮膚の乾燥が進むと、表皮の中まで侵入してきます。
そのため、普通では問題とならないような軽い刺激にも反応してかゆみが起きやすくなります。
つまり、衣類との摩擦や温度の上昇など、ちょっとした刺激でかゆみを覚えてしまうのです。
かゆみが起こると、どうしてもかいてしまいますが、そうすると、皮膚に湿疹が生じ、皮膚のバリア機能がさらに悪化してしまいます。
かかないためには日常生活上の注意が必要です。
せっけんやシャンプーを選ぶときは洗浄力の強いものを避け、使用量も必要最低限にする必要があります。
それ以上に注意する必要があるのは、「こする」ことです。
あかや皮膚表面のカサカサを落とすという目的からなのか、また長年の習慣からなのか、ゴシゴシと体を洗う方が多いようです。
そうすることによって皮脂が失われ、皮膚表面の角質層もそぎ落とされてしまいます。
つまり、こすればこするほど、皮膚の乾燥が誘発されてしまうのです。
入浴時にはタオルを使用せず、せっけんを手で泡立てて優しく洗うのが一番といえます。
入浴後に保湿剤を塗るのも役立ちます。
市販されている保湿剤にはかゆみを止めるために入れてある成分が刺激になることがあり、注意が必要です。
保湿を目的にした入浴剤の使用も有効です。

2022年03月12日

漢方

漢方薬には「効果が表れるまで時間がかかる→長く服用しないと効かない、速効性がない」
「安全な薬である」「体質を改善する薬である」「飲みづらい」などなど、さまざまなイメージがあるようです。
これらすべてが正しいというわけではありません。
副作用がないわけではなく、肝臓や肺への副作用、薬疹など生じる場合があります。
効果が表れるまでの時間には個人差がありますが、速効性がないわけではありません。
さて、漢方を使用する医学の考え方では、体のある部分に生じた病気を、全身バランスの崩れの結果生じたサインの一つと見なします。
例えば顔にニキビが出た場合西洋医学ではニキビという病名に基づいて、皮脂分泌をコントロールするためのビタミン剤や、
〝ニキビ菌〟を抑える化膿止めの薬を内服することが多いものです。
これに対して東洋医学では、ニキピを体の歪みのサインとして考えます。
便秘やストレス、生理、胃腸が弱い、冷え症など、ニキビを悪化させる誘因は人それぞれです。
体のどの部分に変調を来しているのかを、東洋医学的なアプローチで見極め、処方を決定していきます。
つまり同じ病名だからといって、誰もが同じ漢方薬で同じ効果が得られるものではないのです。
漢方は飲むだけではなく、入浴剤に使用することもあります。
この時期、乾燥により、肌がカサカサすることが多いと思います。
「刻み生薬」というものを煮出し、お風呂に入れて使用する入浴剤がありますが、「刻み生薬」の組み合わせによって保湿効果が期待できます。
人によってはカプレを起こす場合もありますので、注意は必要ですが、治療の福助になると考えます。
生活環境の変化に伴い、難治性で慢性的な病気が増えてきています。
そういった場合、漢方治療が役立つかもしれません。

2022年02月10日

やけどについて

寒い季節になってきました。
お湯や熱い油、ストーブ、アイロンなど、やけどの原因は私たちの身の回りにたくさんあります。
やけどの程度は、その深さと面積によって判断します。
深さは浅いものから深いものになるにしたがって、Ⅰ度、Ⅱ度、Ⅲ度、Ⅳ度と分類します。
I度は皮膚の表面(表皮)のみが損傷を受け、皮膚が赤くなり、ヒリヒリ感がでますが、だいたい数日で治ります。
Ⅱ度はやけどの深さによってさらに二つに分けます。
Ⅱ度(浅い)は表皮の下、真皮の浅い所までの損傷で、赤くなってから、水疱(水ぶくれ)ができます。
二週間程で、表皮が再生し傷が治ります。色素沈着が残りますが、月日がたてば消えていきます。
Ⅱ度(深い)は真皮の深い所までの損傷で、水疱ができ、皮膚が白っぽくなります。
治るまで二週間以上かかり、傷あとが残ります。
Ⅲ、Ⅳ度は真皮を越え、皮下脂肪(Ⅲ度)や時には筋肉や骨(Ⅳ度)まで損傷したものです。
こうなると、もはや水疱はできず、灰白色や黒色になり、「壊死」という状態になります。
そのままでは自然に皮膚が上がっていくことはなく、手術をし、壊死した部分を取り除く必要があります。
大人の人が体表面積の30%のやけどを負うと生命にかかわります。
体液が流出し、血圧が低下しショックという状態に陥るからです。
さらに表皮という防御壁がなくなるため、細菌などに感染してしまう危険性も高まります。
なお、これはあくまでも目安ですが、小さいやけどの場合、手のひらの面積が体表面積のだいたい1%ですので、
これを基に受傷した面積を測ることができます。
やけどをしたら、すぐに水で冷やしてください。
そのままにしておくと、やけどが深くまで進むことがありますので、冷水で三十分は冷やす必要があります。
手をやけどした場合、指が腫れてくることがあります。
指輪をつけたままにすると、取れなくなりますので、はずすようにしてください。
重症度にもよりますが、やけどをした場合は、できるだけ早く、医療機関で処置を受けるようにしてください。

2022年01月13日

乾燥によるお肌のトラブル

暑い夏がいつのまにか終わり、寒い季節がやってきました。
冬に多い皮膚トラブルは、「しもやけ」に代表される寒冷によるもの、「ヤケド」など暖房器真によるものなどさまざまです。
中でも乾燥によるトラブルが近年増加しています。
乾皮症や皮脂欠乏性湿疹と呼ばれているものがそうです。
乾燥によるトラブルが起こる背景には湿度の低下があります。
住宅の気密性の向上に伴い、冬の室内の湿度は30%もしくはそれ以下に低下します。
ある程度年齢を重ねると、毛穴から分泌される皮脂の量が減ってしまいます。
女性の場合、早い人で二十五歳を過ぎたころから、男性でも五十歳を過ぎるころから皮脂分泌は低下してしまいます。
さらに皮膚表面の角質層に存在する、「セラミド」などの「角質細胞間脂質」や「天然保湿因子」の主成分である「アミノ酸」の合成量も低下します。
その結果、皮膚は水分を保持できなくなり、乾燥し、外部刺激から身を守る「バリア機能」が低下してしまいます。
冬になり、すねや腕、腰などが「粉がふく状態」になったり、かゆくなったりするのはそのせいです。
かゆみが起こると、どうしてもかいてしまいます。
しかし、そこかく行為により、さらなるかゆみを誘発し、「かゆいからかく、かくからまたかゆくなる」という「かゆみの悪循環」が起こります。
かゆみを強くさせないためには、日常生活上の注意が必要です。
せっけんやシャンプーを選ぶときは洗浄力の強いものを避け、使用量も最低限にする必要があります。
それ以上に注意が必要なのは、入浴の際に行う、擦る行為です。
「あか」や皮膚表面のカサカサを落とす目的や長年の習慣から、ごしごしと体を擦って洗う方が多いようです。
この擦る行為によって皮脂が失われ、皮膚表面の角質層もそぎ落とされてしまいます。
つまり、擦れば擦るほど、皮膚の乾燥、かゆみが誘発されてしまうのです。
入浴時には、タオルを使用せず、せっけんを手で泡立てて優しく洗うのか一番と言えます。
入浴後に保湿剤を塗るのも役立ちます。
保湿を目的にした入浴剤の使用も有効です。

2021年12月02日

ペットを介する皮膚病

みなさんのお宅ではペットを飼ってらっしゃるでしょうか?。
近年、ペットの多様化に伴い、さまざまな皮膚病が増えてきています。
そんな中で多いのがノミによる皮膚病です。
今回はこのノミについて少しお話しいたします。
人間には「ヒトノミ」「イヌノミ」「ネコノミ」「ネズミノミ」が寄生し、吸血します。
第二次世界大戦直後は「ヒトノミ」の寄生が多くみられましたが、1950年代に入ると「イヌノミ」の寄生が多くなってきました。
60年代に入りノミの被害は一時減少しましたが、80年代以降のペットブームで、再びその被害が増加しています。その多くは「ネコノミ」によるものです。
日本における最近の調査では、犬においても猫においても、採取されたノミの多くは「ネコノミ」という結果が出ています。これは世界的な傾向です。
人間への感染は、ペットを抱きかかえた時に直接ノミが移ったり、ノミに感染したペットの通り道から感染する経路があります。
ペットの通り道である地面や畳、じゅうたんの表面には、ノミはサナギの状態で存在しています。成熟したサナギは人間の発する二酸化炭素やドアの開閉といったわずかな振動、圧力、温かさを感じると脱皮が始まります。
その後の羽化は数秒で完了し、成虫になり、そこを通った人間の脚に飛びつき寄生を始めるのです。
ノミの寄生の被害が多いのは夏ですが、暖房が完備されている近年は冬でもみられます。
人間にノミが寄生し、血を吸われると、突発的な痛みやかゆみを感じ、皮膚が赤くなったり小さなプツプツができたりします。
その部分を引っかくと、二次的に細菌感染を起こすこともあります。
ペットを飼ってらっしゃる方で、皮膚に何らかのトラブルが起こった場合、ノミによる被害かもしれません。
早めに皮膚科を受診するようにしてください。

2021年11月06日

癜風(でんぷう)

今回は「癜風」という病気についてお話をします。
あまり聞き慣れない病気かもしれませんが、決して珍しい病気ではありません。
胸や背中の上の方、脇や首に多く見られる皮膚病で、丸い形もしくは楕円形をし、淡い茶色または色が抜けたかのような白色の斑点として現れます。
特別、かゆみや痛みを伴わないので、「癜風」ができたことに気付かないことが多いようです。
一見したところ、シミ?ホクロ?と思うかもしれませんし、色が抜ける病気、いわゆる「シロナマズ」のように感じるかもしれません。
胸や背中にできた淡い茶色をした発疹が、すべて「癜風」というわけではなく、当然ながら、シミやホクロである可能性は十分にあります。
さて「癜風」はカビ、つまり真菌の一種である「マラセチア」の感染により起こる病気です。
水虫やカンジダも「癜風」と同じ、カビ(真菌)の感染によって起こりますが、その種類が違います。
診断をする上で、発疹の出ている場所、色、形など見た目は重要です。
確実に判断するには、発疹の表面を擦ったり、テープを使用したりして細かいカサカサを採取し、顕微鏡を使ってカビの存在、つまりマラセチアの存在を確認する必要があります。
診断が確定したら、治療ですが、その基本は外用薬です。
だいたい四週間程で良くなります。
しかし、再発を繰り返す場合や、病変が広範囲に及ぶ場合には内服薬が必要になります。
「癜風」の原因であるマラセチアは皮脂を好み、比較的高温の環境で増殖します。
従って、お肌の清潔を保つことは予防にも治療にも役立ちます。

2021年10月05日

カブレ

草花などとの接触による,カブレについて少しお話し致します。
カブレは接触皮膚炎といい、皮膚についた物質が炎症を起こすために生じます。
その起こり方によって「アレルギー性」 と「非アレルギー性(一次刺激性)」に分けられます。
アレルギー性の接触皮膚炎は、ある物質にアレルギーをもつ人にその物質が接触すると起こる皮膚炎です。
一次刺激性の接触皮膚炎は、もともと皮膚に障害を起こす性質の刺激物がその濃度や接触時間など条件がそろった時に起こります。
植物によるカブレはアレルギー性の接触皮膚炎であることが多く、ウルシカブレはその代表です。
ウルシカブレの原因は、その名も「ウルシオール」という物質です。
ウルシにかぶれたことがある人は、他の植物にもかぶれることがあります。
マンゴーの果皮やカシューナッツ油、ピスタチオの穀、イチョウ・ギンナンの果肉などがそうです。ウルシかぶれを経験した人は、注意が必要です。
カブレの治療には飲み薬や塗り薬を使用します。
時には注射が必要になるケースもあります。
カブレにおいて、原因を特定し、接触を避けるということは極めて重要です。
何かあった場合は自己判断をせずに皮膚科で相談してみてください。

2021年09月02日

とびひ

「とびひ」という病気をご存じでしょうか?
正式には「伝染性膿痂疹」といって、細菌の感染によって生じ、暑くなる夏の時期に、お子様を中心に多くみられる病気です。
この「とびひ」ですが、水疱(みずぶくれ)をつくるタイプと、痂皮(かさぶたのようなもの)をつくるタイプがあります。
水疱をつくるタイプが、一般的に「とびひ」と言われているものですか、主に黄色ブドウ球菌という細菌が原因で、乳幼児から学童期のお子様に多く、夏に多くみられます。
一方、痂皮をつくるタイプは溶血性連鎖球菌という細菌が原因で、季節や年齢に関係なく発症し、近年増加傾向です。
さて今回は水疱タイプの「とびひ」について、お話しします。
「とびひ」が起こる前にはたいてい、虫刺されやスリ傷、湿疹、かぶれといった、前触れとなる「前駆病変」が存在していることが多いものです。
その前駆病変を引っかくことにより、細菌の感染が起こります。
引っかいてジュクジュクした周りに小さな水ぶくれができ、さらに赤くなっていきます。
水ぶくれは簡単に破れ、「びらん」といって、ただれた状態になります。
その際出てくる「滲出液」いわゆる「つゆ」が他の場所に付着すると病変がひろかっていきます。
治癒の基本は抗菌薬を服用するということです。
ただし、症状の軽いものであれば、患部を清潔にすること、抗菌作用のある外用剤を使用することで治ります。
重症化した場合には、時として入院し抗菌剤を点滴する必要もあります。
この時期、湿疹や虫刺され、かぶれは多くみられます。
そうだと思って治癒していて、もし治らなかったり、悪化したりするようであれば、「とびひ」の可能性があります。
自己判断せず、早めに病院を受診してください。

2021年08月02日

虫刺され

北海道も少しずつ暖かくなってきました。外に出る機会も多くなってきたことでしょう。
外で活発に行動するのは人間だけではありません。さまざまな虫も活動を始めます。
そこで問題となるのが「虫刺され」です。
虫は、皮膚を刺したり、血を吸ったりする際に、毒成分や唾液腺成分を皮膚に注入しています。
これらの物質が生体に対して、化学的刺激やアレルゲン(アレルギーの原因物質)となって、皮膚の炎症が発生すると考えられています。
ハチやムカデ、イラガ(ガの一種)の幼虫である毛虫などに刺されたり、触れたりすると、痛みや皮膚が赤くなる発赤といった症状がみられます。
これは毒針などで刺されたことによる物理的な刺激と、注入された毒成分による化学的刺激によって生じると考えられています。
これらの反応は通常、誰にでも生じます。毒成分に対して感作(アレルギーが成立する)されると、アレルギー性の炎症反応が加わることになります。
一方、蚊やノミ、ダニなどが血を吸う際に注入する唾液腺物質は、皮膚に対する刺激性がほとんどないので、痛みや発赤はみられません。
従って血を吸われていることに気づかないのです。
しかし、唾液腺物質に対して感作されると、血を吸われた後にアレルギー性の炎症反応が起こります。
虫によるアレルギー反応は、虫に刺された直後から十五分程度の間に生じる即時型と、一、二日後に生じる遅延型があります。
さらに、虫の種類や生体側の状況の違いにより、反応の起こり方には個人差が生じます。
また、虫に刺された頻度によっても皮膚の反応に違いがでます。
例えば蚊の場合、初めて刺された時は全く反応が起こりません。
しかし感作が成立すると遅延型反応や、即時型反応が出現するようになります。
その後も蚊に刺され続けると反応が弱くなり、ついには蚊に刺されても無反応となるのです。
日本人は、毎年少しずつ蚊に刺される場合が多いので、いったんは反応が強まりますが、年齢とともに反応が弱まっていくことが多いようです。

2021年07月05日

アタマジラミに注意を

近年、幼稚園児や小学校の児童を中心に、アタマジラミが増加しています。
症状として、頭のかゆみがありますが、全くかゆくならない場合もあります。
頭髪に白いフケのようなものがついていると言って受診される方もいますし、まわりでアタマジラミが発生しているので心配になって受診される方もいます。
アタマジラミの卵は大きさ0・5㍉程度で、毛髪に固着しています。
フケと違って指で引っ張っても取れません。
卵は後頭部付近に多い傾向があります。
シラミの成虫を実際に見つける方もいます。
成虫は体長約3㍉の白っぽい虫で、意外と素早く動くので、見つけたとしても見失うことが多いようです。
アタマジラミの治療には、フェノトリン(商品名はスミスリン)という薬を使用します。
パウダータイプとシャンプータイブがあります。
このフェノトリンは成虫や幼虫には効きますが、卵には効きません。
卵がふ化するのは成虫が産卵して十日ほどなので、治療には一~二週間かかることになります。
さてこのアタマジラミですが、頭髪と頭髪の接触で伝染するのですが、タオルなどを共有することでも伝染することがあります。
アタマジラミをみつけたら、一緒に住んでいる親、兄弟など家族にも発生していないか、早急に確認する必要があります。
治療により治る病気ですが、アタマジラミと気付くまでにかなりの日数がかかったり、病院を受診せずに済ませようとしたりして治療開始が遅れ、周囲に拡大するケースもあります。
何か怪しいと思ったら、早めに受診するようにしてください。

2021年06月07日

夏に多くなる皮膚病、かぶれ

ライラックが咲き誇る5月下旬から6月上旬にかけて、北海道では「リラ冷え」と呼ばれる気温の低い日が続きます。
「リラ冷え」という言葉をつくったのは、作家の渡辺淳一さんではなく、榛谷美枝子さんという北海道を代表する俳人だそうで、1960年に詠まれた句の冒頭に使われています。
この肌寒い時期が過ぎると北の大地にも遅い夏が訪れます。
ライラックは季節を告げる花でもあるのです。
さて夏になると日差しが強くなり、汗も多く出るようになります。
また屋外では植物が生い茂り、虫などの小動物も繁殖します。
素肌にアクセサリーを付けたり、素足にサンダルを履いたりする機会も多くなるのではないでしょうか。
薄着になり、お肌を露出すると外部からの刺激にさらされて「かぶれ」や「虫刺され」などの皮膚病が発生しやすくなります。
イヤリングやピアス、ネックレス、指輪などのアクセサリー、時計、バックル、ジーンズの裏ボタン、留め金などに含まれることが多い、ニッケルやコバルト、皮革中のクロムなどの微量金属は、汗により溶け出し、かぶれを起こしやすくします。
ズボンのポケットに入れたコインが原因で、太ももにかぶれを起こしたという事例や、携帯電話との接触で耳やほほにかぶれを起こしたという事例があります。
これらも微量金属がかかわっていると考えられます。
同じものを寒い季節に使用してもかぶれを起こさず、暑い汗ばむ季節に使用するとかぶれを起こすという現象はよく見られます。
金属以外にもかぶれを起こす可能性があるものはあります。
レインコートに含まれるはっ水加工処理剤やゴム長靴の加工剤、ス二ーカーの接着剤、水泳やダイビングの時に使用するゴム製ゴーグル、ウェットスーツ中の物質などさまざまです。
屋外で活動するときは植物との接触機会も増えます。
草取りをしていてかぶれを起こしたという経験をされた方は多いのではないでしょうか。
ただ、こういったケースで原因植物を特定するのはなかなか難しいものです。
強い皮膚症状を起こす漆かぶれは有名です。
この漆にかぶれたことのある人は、マンゴーやカシューナッツ、ピスタチオ、イチョウにかぶれることがあります。
菊もかぶれの原因になり、漆と同じように、菊にかぶれた人はヒマワリやタンポポ、ダリア、ヨモギ、レタスにかぶれることがあります。
医者いらずとして有名なアロエも時としてかぶれを起こします。
これからの季節、何かと皮膚トラブルは起こるものです。
ささいなことでも皮膚科を受診されることをお勧めします。

2021年05月24日

トリカブトの話

皆さんはトリカブトをご存じでしょうか?
トリカブト類はほとんどが猛毒で、北半球全体に広く分布しています。
毒の強烈さは植物界で最強と言われています。
トリカブトは古代から矢毒の原料として使われるなど、人間の歴史と深くかかわっています。
日本でもトリカブトが猛毒であることは古来知られていました。
今昔物語集には、このトリカブトが記された話がありますし、トリカブトを題材にした狂言「附子」は太郎冠者と次郎冠者が登場する、教科書にも採用されている有名な話です。
また、東海道四谷怪談に出てくるお岩さんが命を絶ったのはトリカブトを使っていたようです。
トリカブトの毒は葉や花にも含まれていますが、特に含有量が高いのはイモ状の根です。
漢方治療においては古くから、この根を使います。
親イモと子イモに相当する母根と子根とがあり、このどちらを使うか、また処理方法の違いなどにより「附子」「鳥頭」などいくつかの呼び名があります。
トリカブトの猛毒成分は「アコニチン系アルカロイド」という名前の物質です。
これをせんじると分解されて毒性が弱くなり、痛みを止めたり、新陳代謝を高めたりする化学物質に変化します。
新陳代謝を活発にし、体を温め、痛みを止めるという目的において重要な生薬です。
特に全身の機能低下がある高齢の人や、リウマチなど慢性消耗性の病気の漢方治療には非常に有効です。
皮膚科領域でも、冷えて悪化するアトピー性皮膚炎やニキビ、帯状疱疹に伴う痛みの治療に、附子つまり、トリカブトを含む漢方薬を使用するケースは少なからずあります。

2021年05月10日

おむつの話

おむつかぶれは赤ちゃんの多くに生じる皮膚トラブルです。
大抵はちょっとした対処と工夫で良くすることができます。
最近は布おむつが再評価されて、使用する方が増えているようですが、現代の日本では圧倒的に紙おむつの使用が多いのではないでしょうか?
紙おむつが支持される理由は何よりその便利さです。
尿は高分子吸収体に吸収され、ゼリー状になり、数回分の排尿を吸収します。
さらに尿が漏れにくい機能を備えています。
腰や、またの当たる部分にギャザーが付いているため、体にフィットして便がこぼれ出ない工夫がされています。
紙おむつはもともと、漏れにくい機能を優先したため蒸れやすかったのですが、最近は通気性の良いものが増えています。
ただ、ごみが増えて環境に優しくない、価格が高いなどの欠点があります。
一方、布おむつは排せつ物が出る度に交換しなければ不快感が生じます。
排便は授乳中と授乳後に多く、音もするので交換するタイミングを逃すことは少ないですが、排尿は分かりにくく、おむつに手を当てないと気づかないことが多いと言えます。
布おむつの良い点は通気性です。
排尿、排便後にこまめに交換しさえすれば、汗は布に吸収され、通気性が保たれます。
欠点は交換回数が多いことと、排せつ物が漏れ出すことが多い点です。
これらの欠点を肯定的にとらえるなら、親子のスキンシップが増えるということでしょうか。
紙おむつは布おむつに比べ、おむつの交換回数が減る傾向にあります。
これが蒸れによるかぶれを引き起こす要因になります。
日中は蒸れない布おむつを使用し、こまめに交換する。
夜間や下痢をしている時は漏れない紙おむつを使用する。
このような工夫をすると良いのではないでしょうか。

2021年04月26日

「円形脱毛症」

円形脱毛症は突然、円形に脱毛が起こる病気です。
頭だけではなく、「毛」が存在する所なら、まゆ毛やまつ毛、ひげ、体毛など、どこにでも起こりえます。
脱毛に先立って現れる病変や前兆はなく、かゆみや痛みといった自覚症状もありません。
したがって、何らかの前兆があったり、自覚症状を伴ったりする場合は、別のタイプの脱毛かもしれませんし、他の病気を合併しているのかもしれません。
円形脱毛症は皮膚科を受診される方の2~5%の割合をしめます。
また一生を通じて円形脱毛症が発症する確率は1~2%と推測されています。
患者さんの10~30%の方に家族内発症があるといわれています。
アトピー性疾患や染色体異常のダウン症候群における脱毛症の合併率の高さや一卵性双生児における、脱毛発症の一致率の高さから遺伝の関与があることは確かです。
しかし、この円形脱毛症は、その原因がいまだに、はっきりとしていません。
以前から円形脱毛症と精神的ストレスの関連が指指されていましたが、確かな証拠はありません。
ただ、ストレスと脱毛を関連づける実験結果が一昨年に報告されていますので、その因果関係を否定することはできません。
精神的ストレス以上に、原因として有力なのが、自己免疫の異常です。
病原菌などから身を守るための免疫機能が、その矛先を自分自身に向けてしまっているのではないかと考えられています。
つまり、自分の持っている免疫力が毛を構成する組綾を攻撃しているのかもしれないのです。
治療は古くから行われている内服治療や外用治療の他、ステロイド内服・外用・病変局所への注射治療、紫外線照射治療、液体窒素による冷却療法、局所免疫療法など様々です。
症状に応じて、その治療方法を選択しますが、中には治癒が困難な場合があります。
さらに、いったん治癒しても再発する場合もあります。
いずれにせよ、脱毛に気付かれたら、皮膚科を受診してみて下さい。

2021年04月05日

食後の運動で・・・

「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」という、ちょっとややこしい
感じのする長い名前の病気をご存じでしょうか?これは、ある特定の食物
を食べた後に運動すると、じんましんなどのアレルギー症状が起こる病
気を言います。症状は時に重くなり、じんましんだけではなく、呼吸困難
に陥ったり、血圧が急激に下がったりといったショック症状が起きること
もあります。
 原因となる食物は穀物や魚介類、果物などさまざまですが、パンやめん
類などの小麦製品が最も多いのです。
 この病気が初めて起こる年齢は十‐二十代で、中学生‐高校生を対象と
した調査によると、有病率が約八千三百人に一人という結果が出ています。
 原因食物を食べただけでは症状が出ないので、患者さんの多くは食物
(食事)が原因だと気付かないことが多いようです。運動は激しい運動に
限らず、ただ歩くだけなどの軽い運動でも症状が誘発されることもありま
す。症状は食後一時間以内に出るケースが多いのですが、二時間以上にな
ることもあります。
 食後の運動という要素に加え、アルコールの摂取や疲労、ストレス、あ
る種の薬の服用などがかかわっていることも分かってきました。薬に関し
てはアスピリンの服用で症状が悪くなったとの報告が多いようです。
 どうしてこのようなことが起こるのかはまだ十分に解明されていません
が、患者さんの血液の中にはアレルギーの原因である「抗原」に対して反
応・抵抗する成分「抗体」が検出されます。運動などにより、消化管からよ
り多くの抗原が吸収されることが、重要な要素の一つであることが明らか
にされています。
 今のところ、根本的な治療は確立されておりません。原因となる食物が
判明した場合、極力その食物を食べないようにすること(できれば食べな
いようにする)と、食後三時間程度は運動を制限することで、かなりの割
合で症状がでないようにできます。実際症状が出てしまった場合には、飲
み薬や注射、ショック症状に対する処置などを行う必要があります。

2021年03月15日

むしでじんましん?

みなさんはアニサキスという言葉を聞いたことがあるでしょうか?
魚介類に寄生する虫の一つです。
 刺し身など生で魚介類を食べた後、突然起こる激しい腹痛の原因として
以前から有名でした。最近は、魚介類を食べた後のじんましんの原因とし
て、このアニサキスによるアレルギー反応が注目されてきています。
 アニサキスはイカやサンマ、イワシ、アジなど多くの回遊魚に寄生し、
これらを餌にするタラやサバにも寄生する線虫の一種です。動物に寄生す
る回虫もこの線虫の仲間です。文献によると各種魚介類のアニサキス寄生
率は、スケソウダラやサクラマスで100%、マダラで96%、カツオ90%、
ニシン77%、ゴマサバ55%、マアジ51%、マイカ(スルメイカ)42%、カ
タクチイワシ3-11%、などとなっています。
 アニサキスは温度の変化に弱く、六〇度で数分、氷点下二〇度では数時間
で死滅します。ですから魚介類を加熱調理したり、冷凍したりすること
で、消化管アニサキス症といわれる腹痛を防ぐことができます。というの
も、消化管アニサキス症は生きたアニサキスが胃壁や腹壁に穴を開けても
ぐりこむことで起きます。加熱や冷凍でアニサキスが死滅すれば大丈夫
ということになるのです。
 一方、アニサキスが引き起こすじんましんは、アニサキスそのものを構
成する成分やアニサキスが分泌したり排せつしたりする物質が原因とされ
ています。これらの成分・物質は加熱しても、冷凍しても影響が続きます。
つまり魚介類を焼いたり、煮たり、いくら十分に調理しても、また缶詰の
ような下処理加工をされていたとしても、じんましんは起こりうるという
ことです。
 魚介類を生で食べる機会の多い日本では、知らないうちにアニサキスの
成分にさらされており、魚の生食が多い地域では、アニサキスアレルギー
を引き起こす抗体を持った人が多いという調査報告があります。
 魚介類を食べた後に生じるじんましんや、治りづらいじんましんには、
このアニサキスアレルギーがかかわっている可能性があります。

2021年02月25日

「足の爪」の話

足のつめは、つま先を保護し、指の力を増加させ、感覚を敏感にさせる
役割を持っています。つまり足のつめは、足先にかかる負担のバランスを
取る働きを持っているのです。
 つめの主成分はケラチンと呼ばれるタンパク質で、皮膚や髪の毛と同じ
ものです。つめが骨の一部かのようにとらえられるケースがありますが、
決してそうではないのです。つめは内側に巻く性質を持っており、健康な
つめの場合、根元からつま先まで同じ幅で伸び、真ん中がやや盛り上がる
形をしています。
 数年前に行われた調査ですが、高齢者介護施設に入所されているほとん
どの方の足に、何らかのトラブルがあることが分かりました。つめの水虫
を含む、足の水虫が44%、巻きつめが36%、外反母趾が33%という結果
が出ています。ある高齢者介護施設入所中の八十人のうち、足に問題がな
かった方は、わずかに四人だったという詞査結果もあります。
 巻きつめの原因はつめの角を丸く切る、深づめをする、合わない靴によ
る圧迫、外反母趾、つめの水虫などがあります。
圧迫が原因であれば、靴の選択が重要になってきます。水虫が背景にあれ
ば、その治療を行う必要があります。
 それ以外で言うと、足のつめ切りは巻き爪予防という意味でも重要です。
足のつめを手のつめと同じような形に切る方は多いと思います。つまり
両端を丸くする切り方です。これは巻きづめを発生させる可能性があり
ます。足のつめ切りの基本は長方形に近い形に切るという切り方です。
 つめの先端はほぼ直線になるように切り、少し伸び気味かなという程度
に伸ばしている方がいいのです。

2021年02月02日

「フケ」のお話

頭から白いものがパラパラ…。
フケはたいていの人が持ち、気にしている人も多いのではないでしょうか?
フケとは頭皮から落ちる皮膚の毛穴から出る皮脂が混ざったものです。
一般的に言う「フケ症」はフケがが増えて目立つ状態を指し、医学的には「脂漏性皮膚炎」の軽症を指していると考えられます。
あるアンケートでは男女ともに五割くらいの人が、フケが気になると答えています。
フケ症の原因はさまざまです。ストレスや食生活の乱れ、睡眠不足などが絡み合っています。また、皮脂もこの「フケ症」には大きくかかわっています。
皮脂から作られる成分が皮膚の新陳代謝を早めて炎症を引き起こすという報告があります。
この皮脂由来の成分は紫外線や皮膚に存在する微生物の影響を受けて作られます。
最近、微生物の中でも「マラセチア・フルフル」というカビ(真菌)の一種が注目されています。カビを抑える目的に抗真菌薬を配合したシャンプーも市販されています。
フケ症の人は、かゆみか出ない、フケが落ちないという状態を目安にシャンプーの回数を決め、各種フケ止め用シャンプーは使ってみて気に入ったものを使えばいいでしょう。
ただし、どんなシャンプーでも肌に合わず、かぶれることがあります。
そんな時はすぐ使うのを中止し、病院で受診することをお勧めします。
また生活のリズムを整え、暴飲暴食を避け、バランスのとれた食事を取り、睡眠不足にならないように注意することが必要です。「マラセチア」というカビば脂を好む性質なので、
油性の整髪料は使わないほうがいいでしょう。

2021年01月18日

皮膚と栄養

全身を覆う皮膚は外敵からの防御機構の最前線に位置しています。
新陳代謝を活発に繰り返し、細菌やウイルスの侵入を防ぐ役割を担っていま
す。そのため、皮膚に必要な栄養素を補給し、健康な状態を保つことは極
めて重要なことです。
 皮膚は網目状に張り巡らされたコラーゲンの繊維によって、その弾力が
保たれています。コラーゲンの主な原料はプロリン、アルギニン、システ
インなどのアミノ酸です。コラーゲンを合成するには、良質なタンパク質
とビタミンCが不可欠です。また、アミノ酸の一つであるタウリンも肝臓
の機能を高め、皮膚に有害な物質を除去するのに有効な成分とされており
、それを多く含む魚介類の摂取がお勧めです。
 ビタミンCはメラニン色素の変化を防いだり、コラーゲンの形成と維持
を調節したりする効果を持ち、鉄分の吸収を助ける働きもあります。通常
の食事をしていればビタミンCが不足することはまずありませんが、偏食
をしていたり、抗生物質を服用していると、腸内細菌が変化し、ビタミン
Cの合成が低下する場合があります。ビタミンCが低下、欠乏すると、皮膚
の内出血や粘膜からの出血が起こることがあります。ビタミンCを多く含む
食品にはイチゴやプロッコリー、赤ピーマン、芽キャベツなどがあります。
 ビタミンAやEは抗酸化ビタミンと呼ばれ、保湿成分の生成に関与し、
皮膚の老化を防ぐ働きがあります。ビタミンAが不足すると皮膚表面が厚
くなり、乾燥肌やサメ肌の状態になります。ビタミンEには皮脂の酸化を
防ぐ効果以外に、血行を良くする作用があり、肌荒れの防止にも大きな役
割を果たしています。ただし、ビタミンAやEは水溶性のビタミンCと違
い、脂溶性で、過剰な摂取は控えなければいけません。ビタミンAはウナ
ギやレバー、卵黄、牛乳に、ビタミンEはアーモンドやタラコ、筋子、煎
茶に含まれています。
 亜鉛やセレンといったミネラルも、皮膚の増殖や機能の維持に必要不可
欠な栄養成分です。亜鉛が欠乏すると、口内炎、脱毛、つめの変形が起こ
り、傷の治りが遅くなることもあります。亜鉛はカキやレバー、ウナギに、
セレンは玄米やこうじ、イワシの丸干しなどに含まれています。
 細胞を正常に働かせるには「必須アミノ酸」を含むタンパク質を十分に
摂取し、ビタミンやミネラルも取る必要があります。バランスのいい食事
を心がければ問題はないでしょう。

2021年01月05日

「水虫」について

水虫はカビの一種である、白癬菌(ハクセンキン)または皮膚糸状菌(ヒフシジョウキン)の感染によって起こる病気です。この水虫、夏の病気と思ってはいませんか?
たしかに、水虫は春から夏にかけ、活動が活発になるので、夏場だけの問題と考えられがちです。しかし寒くなる時期も水虫は生き続けます。
例えば、冬場に「かかと」がガサガサし、ひび割れを起こす。こういう症状を経験される方は以外と多いのではないでしょうか?大部分は皮膚の新陳代謝や乾燥によって起こるものですが、水虫が原因のこともあります。
角質増殖型(かくしつぞうしょくがた)の水虫です。
このタイプの水虫は治療にかなりの時間を要します。また爪の中に入り込んだ、爪白癬(つめはくせん)も同様に治療期間が長くなるタイプです。
これらの治りづらいタイプの水虫は塗り薬だけではなく、飲み薬を使い治療する選択肢もあります。飲み薬は、その効果が塗り薬より高く、治療期間も短縮されることが多いのですが、肝臓や胃腸への負担がかかることがあります。
また薬の値段が少々高いというのも難点です。しかし最近では、一定期間薬を服用し、その後休薬期間を設けながら治療するという方法で、高い治療効果を保ちながら副作用の軽減がなされるようになりました。
但し、妊娠や持病、服用している薬の種類によっては、この内服治療が受けられない場合もあります。詳細については病院でご相談なさって下さい。
近年は住環境の整備(暖房や気密性の高い住居)やブーツや厚い靴下を履く習慣のために冬に水虫が発症したり、悪化したりすることがあります。
夏場治療していた水虫が治ったと思い込み、自己判断で治療を止めると、次の年の夏にまた症状が現れます。
水虫は乾燥と寒さに弱いので、寒い時期こそ、水虫を治すチャンスなのです。

2020年12月21日

「内臓と皮膚」について

皮膚に何か変化が起きた!内蔵が悪いのでは?こう考える人は意外と多いのではないでしょうか?日常診療において、最も多いのは、皮膚に外力が加わったり、物質が接触したりして起きる、湿疹・皮膚炎です。
内臓の異変により生じる皮膚病変を「デルマドローム」と呼びますが、日々の診療において、頻繁に出くわすものではありません。このデルマドローム、具体的にはどのような症状があるのでしょうか?以下は、ほんの一例です。

肝臓障害
・くも状血管腫(蜘蛛の巣のような血管の拡張が胸などに見られる)
・手掌紅斑(シュショウコウハン:てのひらが真っ赤になる)
・紙幣状皮膚(肩から腕の皮膚で、下を走る血管が透けて見える状態)
などが出現することがあります。

貧血や甲状腺疾患
・爪甲剥離(ソウコウハクリ:爪が浮き上がってくる)
・爪甲軟化症(ソウコウナンカショウ:爪が弱く、薄くなる)
といった症状を認めることがあります。

中性脂肪やコレステロールが高い、高脂血症(コウシケッショウ)や高コレステロール血症
・上まぶたの内側などに黄色い結節(ケッセツ)ができることがあります。
 これを、黄色腫(オウショクシュ)といいます。

糖尿病
・糖尿病性壊疽(トウニョウビョウセイエソ:足のゆび先が黒くなり、潰瘍化する)
・掌蹠線維腫症(ショウセキセンイシュショウ:手のひらが縮まって動かしにくくなる)
・黒色表皮腫(コクショクヒョウヒシュ:脇の下の皮膚が厚く、黒ずんでくる)
などがあります。

このように、内臓の異変が、皮膚に現れることがあります。
しかし、皮膚に何らかの変化が生じたからといって、それが全て内臓に理由があるわけではありません。むしろ少ないのです。皮膚に起こる変化は皮膚だけで起こっていることの方がずっと多いのです。いずれにせよ、皮膚で「おやっ!?」と思うことがあれば、皮膚科でご相談してみて下さい。

2020年12月07日

「脂漏性角化症」について

脂漏性角化症(しろうせいかっかしょう)という名前の病気をご存知でしょうか?
これは、中年以降に顔や体に多発してくる、表面がややザラザラし、淡い茶色~こげ茶色を呈することが多い良性の皮膚腫瘍です。
別名、老人性疣贅(疣贅:ゆうぜい→イボ)とも言いますが、実際には20歳過ぎから徐々に出現します。特に屋外で仕事をする人やスポーツ選手などは、紫外線の影響もあり、若年齢でも発症します。
治療方法は、液体窒素による冷凍凝固、レーザー治療、切除、などがあります。
顔や首に生じた脂漏性角化症の治療は、整容的な問題を考え、できるかぎり治療後の色素沈着、瘢痕(はんこん)が目立たなくする必要があります。そのためには、液体窒素療法やレーザー治療が優れた方法です。
またかなりの頻度で、かゆみを伴うことが多く、こういった場合にも液体窒素療法が、かゆみのコントロールには有効です。
但し、この脂漏性角化症は、時として悪性の腫瘍との区別が必要な場合があります。
例えば、悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ)・基底細胞癌(きていさいぼうがん)・ボーエン病・日光角化症(にっこうかっかしょう)といった病気との区別です。
こういった場合には、治療と検査を兼ねて、麻酔をし、病巣を全て切除するか、事前に病巣の一部を切って、病理検査を行う必要があります。
いずれにせよ、今述べました、脂漏性角化症の治療方法には、一長一短がありますし、区別をしなければいけない他の病気もありますので、気になる症状があれば、一度皮膚科での診察をお勧めします。

2020年11月24日

「これはイボ?」

春になると外に出る機会も多くなることと思います。
山菜採りや山歩きをされる方も多いのではないでしょうか?
山菜採りや山歩きの後に「突然イボができた」とおっしゃって外来受診される方がいます。
この「イボ」だと思っているものが、実は「ダニ」だったらどうでしょう?これが以外と多いのです。それはダニの一種である「マダニ」が人間を刺して、吸着することがあるからです。ここ北海道では6月に最も多くマダニ刺症が起こっています。
マダニは人間から血液を吸いながら、ダニの体液を人間の中に戻します。吸血するマダニが病原体を保有している場合があり、様々な病気を媒介することがあります。
病原体を持っていなくても、蚊や蜂に刺された時のように、かゆくなったり、痛みを感じたり、皮膚が腫れ、赤くなったりすることがあります。ただ、以外とマダニに刺される瞬間や刺された直後には、何の自覚症状もないことが多いのです。ですから、マダニに刺されたと自覚する方は少ないようです。
ではマダニに刺されたらどうすればいいのでしょう?
無理に引っ張ると口下片という針のようなものが皮膚内に残ってしまいます。刺されて24時間以内ならピンセットで除去することは可能です。しかしそれ以上になると、皮膚に強固に吸着してしまうので局所麻酔をし、皮膚を切除する必要があります。
更に、マダニが媒介する病原体による病気を予防する意味で抗生物質の内服を行ったほうがよいでしょう。
突然「イボ」のようなものができたら、「ダニ」という可能性もあります。
早めに皮膚科を受診することをお勧めします。

2020年11月09日

「ヘルペス」について

口唇やその周りに痛みや腫れ、水ぶくれができたことはありませんか?
このような症状を示す病気のひとつに「口唇ヘルペス」というものがあります。
一般に「ヘルペス」と呼ばれている病気です。単純ヘルペスウィルスが原因で、感染力が強く、直接的な接触のほか、ウィルスのついたタオルやグラスを介して感染します。
一度感染し抵抗力(免疫)を獲得しても再発を繰り返すことが多いのが特徴です。
疲れやストレス、風邪の前後など体調・体力の低下で出現することが多いのです。
具体的な症状の経過ですが、最初皮膚のピリピリ、チクチク、ムズムズといった違和感が出現します。その後半日程で、皮膚が赤く腫れてきます。更に2?3日後には赤く腫れた上に水ぶくれができます。1?2週間もすると、「かさぶた」ができ、治っていきます。
やっかいなことは、先ほども示しましたが、再発することです。個人差がありますので、再発の頻度や回数はまちまちです。
ヘルペスは早めの治療が大切です。治療にあたってはウィルスを抑える抗ウィルス薬の使用が最も効果的です。内服薬・外用剤があります。薬の効果は病気の初めの方が高いので、異変を感じたら早めに皮膚科を受診することをお勧めします。
ヘルペス出現予防においてバランスの良い食事をとり、十分に休息することが大切です。
精神的・肉体的に健康な生活を心掛けて下さい。

2020年10月26日

「粉瘤」について

粉瘤(ふんりゅう)という病気をご存じでしょうか?
これは、日常よくある病気のひとつで、皮膚の表面が半球状に盛り上がり、さわると弾力のある皮下のしこりをさします。大きさは1㎝以下のものから、数㎝のものまで様々です。
顔や胸、背中によくでき、強く押すと、臭いのある、粥(かゆ)状の内容物が排出されます。成人の男性に多くみられる病気です。もちろん女性やお子様にもみられます。
この粉瘤ができる理由は、毛穴がふさがり、毛の通り道が「袋」のように腫れてくることによります。この「袋」の中には、皮脂(ひし)や角化(かっか)した表皮細胞(ひょうひさいぼう)がたくさんつまっていきます。このようにして粉瘤はつくられていくのです。
この粉瘤、放置しておいても差し支えないことが多いのですが、時に細菌感染を起こし、腫れあがり、激しい痛みを伴うことがあります。そうなると、常に膿を出し続けることもしばしばで、治りづらくなります。ですから、治療は炎症を起こす前に、原因となる「袋」を切って取ってしまうのが一番です。
ここで、余談ですが、皆さんもよくご存知と思います、昔話の「こぶとりじいさん」一説によると、おじいさんの「こぶ」はこの粉瘤だったのでは?と言われているのです。まっ、これは空想の話ですので、責任あることは言えません。
しかし何らかの題材を元に作られた話であると考えると、あながち間違っているとも言えないのではないでしょうか。さて「正直じいさん」の「こぶ」は話の中で、「いじわるじいさん」の頬に移動してしまいます。つまり「正直じいさん」の「こぶ」が消えてしまうわけです。実際に粉瘤が何もしなくても消えることは時としてみられる現象なのです。
粉瘤は日常診療において、遭遇する頻度の高い病気のひとつです。
決して悪性の「できもの」ではありませんが、先程言いましたように、化膿してこじれる場合もあります。
また、粉瘤だと思っていて、実は違うものだったということもありえます。
ですから、何か、気になるものがあれば、遠慮なく、病院を受診して正確な診断を受けて下さい。

2020年10月19日

「こどもの皮膚病」について 

私たちにとって皮膚は気にとめなければ、そこにあるのが当たり前の空気のような存在ではないでしょうか。
しかし皮膚は外部からの刺激から身を守る防御壁の役割を担ったり、汗を分泌して体温調節を行ったり、内臓で起こっている異常を映し出す鏡の役割を果たしたりと、様々な機能を持った生命にとって欠かすことの出来ない重要な臓器の一つです。
さて皮膚と一言で言っても、年齢によりその特徴には違いがあります。
今回は子供の時期の皮膚の特徴と、この時期にみられる皮膚病について少しお話します。
皮膚には、一面に穴があります。汗が出る穴(汗孔:カンコウと言います)と毛(硬い毛やうぶげ)の生えてくる穴(毛孔:モウコウと言います)です。実はこの穴の数は生まれてから一生変わることがなく、ずっと同じなのです。
成長とともに皮膚の面積は増えますがこれらの穴の数は変わりません。ということは、子供の皮膚には汗孔や毛孔が過密に存在していることになります。このことは、毛孔や汗孔が関わる皮膚トラブルが子供には起こりやすいことを示しています。
一方、皮膚の厚さは子供の頃の方が薄く、成長とともに厚くなっていきます。低年齢の時ほど皮膚が薄いため、外界からの色々な刺激の侵入により生じる皮膚疾患も子供の時の方が多いのです。また皮膚の表面は毛孔から分泌される皮脂(ヒシ)で覆われていますが、この量を子供と大人で比較すると、子供はとても少ないのです。
新生児期から生後2?3ヶ月頃までは、母体からのホルモンの影響などで皮脂を作る脂腺機能は活発ですが、それ以降の幼小児期になると機能は低下します。(思春期になると再びその活動は活発化します。)それにより子供の皮膚はカサカサと乾燥しやすいということになります。このことも外界からの色々な刺激に弱い皮膚の要因になっています。つまり子供の皮膚はかなりデリケートなものと言えるでしょう。
それでは具体的に子供の時期によくみられる皮膚病について、いくつか説明します。

脂漏性湿疹(シロウセイシッシン)
乳児期前半に好発します。頭頂部に始まることが多く、顔にもみられます。黄色っぽい色をした厚い鱗屑(リンセツ:かさぶた)で覆われ、紅斑(コウハン:赤み)と痒みを伴ってきます。

単純性粃糠疹(タンジュンセイヒコウシン)
幼児期から学童期の顔に好発する、自覚症状のない境界が不鮮明で円形?類円形のやや色が薄く抜けた斑です。所々に細かい鱗屑(白いカサカサ)が存在しています。

尋常性疣贅(ジンジョウセイユウゼイ)
ヒトパピローマウィルスによる「イボ」です。手足に多くみられ、表面がザラザラと硬くなっており、足の裏にできたものは、「ウオノメ」や「タコ」と間違われることがあります。

伝染性軟属腫(デンセンセイナンゾクシュ)
いわゆる「水イボ」です。プールで伝染することが多いようです。

伝染性膿痂疹(デンセンセイノウカシン)
いわゆる「とびひ」です。引っ掻き傷などに細菌(黄色ブドウ球菌や溶連菌など)が感染し起こります。夏に多い病気ですが、住環境の改善とともに、冬にも増加しています。

頭虱(アタマジラミ)
数年前から函館地区で保育園や幼稚園、小学校で集団発生しています。頭にシラミ、その虫卵を認めます。薬剤を使用し、きっちり治療すれば治ります。

接触皮膚炎(セッショクヒフエン)
いわゆる「カブレ」です。様々な原因があります。オムツをしている時期ですと、下腹部?股、太ももにかけて紅斑(コウハン:赤み)が出現します。但し、オムツの部分に生じる赤みで注意しないといけないのは、カンジダというカビで起こる病気があります。見た目が似ていますので、病院での確定診断が必要です。

まだまだ、様々な皮膚病がありますが、紙面の都合上、また別の機会にお話することとします。大切なことは自己判断をせず、病院での診察のもと、適切な治療を受けることです。
短い夏が終わり、これから冬に向かって気温や湿度が低下していくことでしょう。
皮膚の血管は収縮し、汗や皮脂も少なくなります。そうなると皮膚の表面はカサカサになります。これからの季節は乾燥から皮膚を守るような対策が必要です。
皮膚を清潔に保つことは必須ですが、入浴時の擦り過ぎは乾燥肌を助長します。優しく体を洗うようにして下さい。その後には保湿ローションなどを使用するといった保湿のためのケアが一段と重要になってきます。

2020年10月12日

「シミ」について

「シミ」が気になることはないでしょうか?
一般的に「シミ」と呼ばれているものには様々な疾患(しっかん)が含まれています。
その代表的なものとして、

肝斑(かんぱん)
雀卵斑(じゃくらんはん=そばかす)
老人性色素斑(ろうじんせいしきそはん)
脂漏性角化症(しろうせいかっかしょう)
炎症後の色素沈着

があります。しかし、厳密な意味での「シミ」は肝斑を指します。
さてこの肝斑ですが、30~40歳台の女性の顔(額、頬、口囲)に左右対称にみられる、
大きさ形が様々で、境界明瞭な淡褐色の斑のことをいいます。
原因は、女性ホルモンである、卵胞(らんぽう)ホルモンや黄体(おうたい)ホルモンが
関わっていると考えられています。
さて、これらの「シミ」の治療についてですが、一番大切なことは何と言っても紫外線防御です。現在は様々な紫外線防御剤(サンスクリーン剤)が売られていますので、皆様の生活様式に合わせて、自分にあったものを選択する必要があります。
紫外線防御剤は治療というより、「シミ」の予防に重要な役割を担っていると言えます。
具体的な治療としては、ビタミンC、ビタミンE、トラネキサム酸、グルタチオンの内服があります。(全ての医療機関で処方しているわけではありません。)
しかしこれらの内服薬は全ての人に効果があるわけではありません。
また最初に挙げました様々な「シミ」の種類によっては全く効果がでないものもあります。
更に合併する病気によっては、内服薬の使用を控えた方がいい場合もあります。ですから、内服治療する際は医師との相談が必要になってきます。
内服治療以外ですと、美白剤と呼ばれる化粧品の使用が有効です。アルブチンやエラグ酸、カミツレエキス、コウジ酸、ハイドロキノンなどがあります。尚、コウジ酸は、肝臓における発がんの可能性が否定できないため、現在は使用を控えることになっています。
これら以外の治療方法としては、レーザー治療やケミカルピーリングという方法もあります。ただ、肝斑はレーザー治療を行うことが禁忌とされていますので、注意が必要です。
「シミ」の治療において重要なのは、それが、どういった「シミ」なのかを的確に判断する必要があります。その上で、必要な治療を行っていかなければなりません。

2020年10月05日

古くて新しい漢方薬 

皆さんは漢方薬に対してどういうイメージをお持ちでしょうか?
「効果が現れるまで時間がかかる→長く服用しないと効かない、速効性がない」「安全な薬である」「体質を改善する薬である」「飲みづらい」などなど、様々なものがあることでしょう。確かに、これらの印象は当たっているとも言えますが、しかしその全てが正しいというわけではありません。
現代の医療はいわゆる、“西洋医学”というものが中心です。この西洋医学において治療内容を決定する上で重要なのは、病名を決定することです。
当たり前のことのように聞こえるかもしれません。
しかし東洋医学においては、極端なことを言えば、病名を決める必要はないのです。(あくまでも極端なことを言えばですが)東洋医学の考え方は、体のある部分に歪み(ゆがみ=病気)が生じた場合、それは体全体の歪みの結果生じたサインの一つと見なします。
例えば顔にニキビが出た場合、西洋医学ではニキビという病名に基づいて、皮脂分泌をコントロールするためのビタミン剤や“ニキビ菌”を抑える化膿止めの薬を内服することが多いものです。
これに対して東洋医学では、ニキビを体の歪みの一部のサインとして考えます。
便秘やストレス、生理、胃腸が弱いなど、ニキビが出た原因と考えられるものは人それぞれです。その人の体のどの部分の失調によりニキビというサインが出ているのかを、東洋医学的なアプローチで見極め、処方を決定していきます。
つまり同じ病名だからといって、誰もが同じ漢方薬で同じ効果が得られるものではないのです。最近になって、この漢方薬に対する西洋医学側からの様々な見直しがなされるようになりました。そして漢方薬の作用メカニズムが西洋医学的に徐々に解明されてきています。
生活環境の変化に伴い、難治性で慢性的な病気が増えてきています。
西洋医学の行き詰まりを実感する場面も少なくありません。
今一度この漢方治療を見直してもよいのではないでしょうか。

2020年09月28日

「やけど」について

お湯や熱い油、ストーブ、アイロンなど、やけどの原因は私たちの身の回りにたくさんあります。やけどの程度は、その深さと面積によって判断します。
深さは浅いものから深いものになるにしたがって、Ⅰ度、Ⅱ度、Ⅲ度、Ⅳ度というふうに分類します。簡単に説明しますと、

Ⅰ度は皮膚の表面(表皮:ひょうひ)のみが損傷を受けます。
皮膚が赤くなり、ヒリヒリ感が出ますが、だいたい数日で治ります。

Ⅱ度(浅い)は表皮の下、真皮(しんぴ)の浅い所までの損傷で、赤くなってから、水疱(みずぶくれ)ができます。2週間程で表皮が再生し傷が治ります。色素沈着(しきそちんちゃく)が残りますが、月日がたてば消えていきます。

Ⅱ度(深い)は真皮の深い所までの損傷で、水疱ができ、皮膚が白っぽくなります。
治るまで2週間以上かかり、傷あとが残ります。

Ⅲ、Ⅳ度は真皮を越え、皮下脂肪(Ⅲ度)や時には筋肉や骨(Ⅳ度)まで損傷したものです。こうなると、もはや水疱はできず、灰白色や黒色になり、「壊死(えし)」という状態になります。そのままでは自然に皮膚が上がっていくことはなく、手術をし、壊死した部分を取り除く必要があります。

大人の人が体表面積の30%のやけどを負うと生命にかかわります。
体液が流出し、血圧が低下しショックという状態に陥るからです。さらに表皮という防御壁がなくなるため、細菌などに感染してしまう危険性も高まります。
尚、これはあくまでも目安ですが、小さいやけどの場合、手のひらの面積が体表面積のだいたい1%ですので、これを元に受傷した面積を計ることができます。
やけどをしたら、すぐに水で冷やして下さい。そのままにしておくと、やけどが深くまで進むことがありますので、冷水で30分は冷やす必要があります。
手をやけどした場合、指が腫れてくることがあります。指輪をつけたままにすると、取れなくなりますので、はずすようにして下さい。
重症度にもよりますが、やけどをした場合は、出来るだけ早く、医療機関で処置を受けるようにして下さい。

2020年09月24日

「帯状疱疹」について

みなさんは帯状疱疹(たいじょうほうしん)という病気をご存知でしょうか?
北海道函館を中心とした道南地域の方には以外とよく知られた病気のようです。
というのも、ここ道南地域では昔から帯状疱疹はとても恐ろしい病気で体を一周すると命に関わる病気であると思われているからです。
しかし、帯状疱疹は一般に体を一周するというようなことはありませんし、命に関わるということもありません。
では、この帯状疱疹とはいったいどんな病気なのでしょうか?
実は「水痘帯状疱疹ウィルス(すいとうたいじょうほうしんウィルス)」と言われる、「みずぼうそう」のウィルスが引き起こす病気なのです。大抵の人は子供の頃に「みずぼうそう」にかかっているか、もしくはそのワクチンを接種していると思われます。
「みずぼうそう」にかかったり、ワクチンを接種したりした後も、ウィルスは体内に残ってしまいます。普段は自分の抵抗力、免疫力でこのウィルスを押さえ込んでいるのですが、寝不足や疲れ、ストレス、風邪などの病気の前後のように、体力が落ちてしまった時に、ウィルスの押さえ込みが弱まり、活発化することがあります。
これが、帯状疱疹なのです。「みずぼうそう」のウィルスは神経の中で活発化します。これにより痛みを感じるのです。帯状疱疹の初期の症状はこの痛みが主で、しかも皮膚の変化はほとんどありません。ですから、筋肉痛や神経痛と勘違いされることが多いようです。
ウィルスが活発化するのは背骨の両脇に存在する「神経節(しんけいせつ)」から左右に伸びるどこかの神経の中ですので、症状は体のどちらか半分にしか現れません。
痛みに続き、皮膚には赤みと水ぶくれができてきます。
治療ですが、現在はこのウィルスの増殖を抑える薬が開発され、高い効果を示しています。
やっかいなのは、帯状疱疹が良くなった後も「帯状疱疹後神経痛」という痛みが続くことがあることです。できるだけ早い時期に治療することで、その発症を食い止めることが可能です。またこの痛みは冷えると悪化するこが多いのです。痛いからといって冷やさず、逆に温めると結構楽になります。
治療開始時期が後々に影響を与えます。
おかしいなと思ったら、早めの受診をお勧めします。

2020年09月14日

ステロイドについて

さて、アトピー性皮膚炎と切っても切り離せないのがステロイドです。
ステロイドは悪の代名詞のように言われ、その治療を拒否する方も少なくありません。
ステロイドは副腎皮質ホルモンと呼ばれる物質の一種で、血液によって常に体内を循環し、さまざまな臓器や細胞に働きかけ、身体にいろいろなストレスが加わった時に体調を整える重要なホルモンです。このステロイドには炎症や免疫を抑える強い働きがあるのです。
このステロイドを人工的に化学合成したのが、ステロイド薬です。
1949年の初めにアメリカの医師がリウマチ患者さんにステロイド薬のひとつであるコルチコステロイドを注射し、歩けなかった患者さんが歩けるようになったという劇的な効果が現れました。その後、喘息のようなアレルギー性疾患、リウマチのような自己免疫疾患などの多くの病気に使われるようになりました。
1952年にはステロイドが皮膚疾患にも効果のあることが明らかになり、アメリカで外用剤が開発されました。
アトピー性皮膚炎におけるステロイド外用療法の位置づけは、専門医がきちんと治療すれば副作用を最小限に抑えて最大の効果を発揮できる治療と言えます。
しかし根本治療ではなく、あくまでも炎症を抑える対症療法です。
ただ、ステロイドにより炎症を抑えられれば、悪化した皮膚のバリア機能も改善していくので、対症療法ではあるけれど、根本的な治療にもある程度はつながっていると考えることもできます。
ステロイド外用剤に対する患者さんの最大の不安はその副作用でしょう。ステロイドを全身に長期にわたり大量に使用すると、副腎機能が低下する、糖尿病を悪化させる、骨がもろくなる、風邪などの感染症にかかりやすくなるといった全身的な副作用があります。
その反面、ステロイド外用剤は血液を通さず直接患部に使用するため医師の適切な指示に従って使用すれば、全身的な副作用の心配はほとんどありません。
ちなみにステロイド外用剤を使用して全身的副作用が起こった例は世界中でこれまで13例で、大半が乾癬という別の病気です。アトピー性皮膚炎での事例は1例だけです。
しかし、実際には、ステロイドの内服や注射による全身的な副作用と外用剤による局所的副作用が混同されているようです。
ではステロイド外用剤に副作用の心配はないのでしょうか?決してそんなことはありません。ステロイド外用剤による皮膚における副作用は大きく分けて2つに分かれます。
1つはホルモンとして直接皮膚に影響する副作用で、もう1つは炎症や免疫を抑えるために起こる感染症の副作用です。それらをまとめると、

①毛が増えて多毛になる。
②皮膚が赤くなる
③毛細血管が拡張する
④皮膚が萎縮して薄くなる
⑤ニキビが発生する
⑥ヘルペスウィルス感染症が発生する
⑦水イボが発生する
⑧水虫が悪化する
⑨すでにある細菌感染症が悪化する
⑩かぶれる

以上のようなことがステロイド外用剤の副作用としてあげられます。但し、これらの局所的副作用はステロイド外用剤を塗ると必ず起こるわけではありません。大量に長期間使用した際に起こることがあるものです。
ではなぜ「ステロイドは怖い」のでしょうか?
我々皮膚医はステロイド外用剤を拒否する患者さんは、何となくステロイドという言葉に曖昧に恐怖感を抱いているのではないかと感じています。以前「ステロイドの何が怖いのか?」という趣旨のアンケートが行われました。
その回答は、《リバウンド》、《病状が悪化する》、《効果がなくなる》、《皮膚の色が黒くなる》、《ステロイドなしではいられなくなる》、《子供がアトピーになる》、《副腎機能が低下する》、《体に蓄積される》、《奇形児が生まれる》、《ムーンフェイスになる》、《白内障になる》などでした。
しかしこれらの回答は患者さんの誤った思い込みなのです。
まずリバウンドについてですが、患者の自己判断や医師の指示など何らかの理由でステロイド外用剤を中止したあと、症状が悪化する。この現象が一般にリバウンドと言われています。しかし、厳密に言えばリバウンド現象は外用剤において存在しない概念です。
リバウンドとは、ステロイド内服薬や注射薬によって自分の体でつくりだされる、ステロイドホルモンの量が極端に低下した状態で、内服・注射を中止したことによる症状の増悪を指します。ステロイド外用剤の中止後の悪化は、単なる治療中断による急性増悪に過ぎないのです。
多くの場合、皮膚症状が十分改善していないのにもかかわらず、外用を中止して症状が悪化しているのです。それがなぜかアトピー性皮膚炎では、患者さんも医師も簡単に「ステロイドのリバウンド現象」という言い方をして、しかもそれがステロイド外用剤そのものの欠陥であるかのように誤解されています。
次に皮膚の色が黒くなるということについてですが、これも誤解の多い事柄です。
実はステロイドは皮膚の色素産生を抑える働きがあり、ステロイドを使用すると肌はむしろ白くなります。黒くなるのは、炎症が治まったあとの色素沈着であったり、掻破(掻く行為)や摩擦によって起こった色素沈着なのです。しかも炎症を早く抑えないと色もつきやすく、炎症が長引けば、色素沈着も長く続きます。
白内障になるということは、一時ステロイド外用剤との関連が疑われましたが、現在は無関係であることが証明されています。ステロイドを大量に内服した場合には白内障が起こることはありますが、外用剤によって起こることはありません。
アトピー性皮膚炎に起こる白内障や網膜剥離は眼の周りを掻いたり、こすったり、叩いたりといった行為が大きく関わっているのです。
その他についても根拠のない間違った認識なのです。
治療目標を達成するためにステロイド外用剤のもつ意義は小さくありません。
しかしステロイドはアトピー性皮膚炎を治す特効薬ではありません。あくまでも皮膚の炎症を抑える薬です。アトピー性皮膚炎は基本的には薬をうまく使ってコントロールをする病気であるという認識が重要なのです。

2020年09月07日

治療において重要なスキンケア

ほんの10数年前までは、アトピー性皮膚炎の原因はアレルギー説一辺倒でした。
しかしアレルギーだけではどうしても説明がつかない患者さんを前にし、別の視点からアトピー性皮膚炎を捉え直そうという動きが高まってきました。
これはアレルギー性疾患としての側面を否定するものではなく、角度を変えて考えることで、治療への突破口がみつかるのではないかという期待があったからです。
アトピー性皮膚炎には、アレルギー素因と皮膚素因の両者がからんでいます。
アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚は乾燥してカサカサになる傾向があります。これは、アトピー性皮膚炎の患者さんの角質層(皮膚の表面を覆っている部分で、個々の角質細胞はレンガを積み上げたような構造をしています)において、各角質細胞の間をうめる脂質(セラミドという物質が主成分)が減少していることが多いからです。
このことにより、外来からの物理的刺激(ほこりや汗など)に敏感になり、痒み→炎症の原因になっていきます。つまり、皮膚のバリア機能が低下していると言えるのです。
ではなぜ、バリア機能に異常が生じるのでしょうか?これはかなり解明がすすんでいます。セラミドは酵素の働きによって体内で合成されますが、アトピー性皮膚炎の患者さんでは、別の酵素によってセラミドとは違う物質がつくられてしまっているのです。
原因はおそらく、遺伝子の問題だろうと推測されています。つまり、最初から乾燥しやすい肌の人がアトピー性皮膚炎の患者さんには多いということです。
したがってアトピー性皮膚炎の治療において、スキンケアは重要な意味をもってきます。
例をあげてみましょう。入浴時に行うことが多い「垢こすり」かつての入浴習慣(1ヶ月に数回しか入らないような)ですと、実際に垢が皮膚の表面にたまり、強くこすることに意味があったのでしょうが、現在の日本における入浴習慣(たいがいの人はほぼ毎日入浴していると思いますが)では、こするという行為はいたずらに皮膚をそぎ落とす行為でしかないのです。このことにより、皮膚のバリア機能は著しく阻害されます。
清潔にしているつもりの行為が、実はかえって皮膚を外来刺激が侵入しやすいような肌にしてしまっている行為になってしまうのです。
但し、これは、体を洗うことが良くないと言っているわけではありません。当然、その日についた汚れや汗は落とす必要があります。皮膚を清潔に保つのは必須のことです。
こするのはだめだけれど、きれいにする必要がある。この矛盾するようなことを実践しなければならないのです。
更に、入浴後はその人その人にあった保湿剤を塗る必要があります。
こういったスキンケアこそが、アトピー性皮膚炎の治療の出発点として最も重要なことのひとつなのです。

2020年08月31日

「アトピー性皮膚炎」の治療 

アトピー性皮膚炎の治療目標って何でしょうか?患者さんは、「できることならこの病気と完全に縁を切りたい」と思うでしょう。しかし残念ながらアトピー体質は生まれもったものだし、アトピー性皮膚炎を起こす遺伝子、もしくはそれを起こさない遺伝子はまだ特定されていません。仮にそれらの遺伝子が見つかったとしても遺伝子治療はまだまだ遠い先のことでしょう。
アトピー性皮膚炎の治療で大切なのは、粘り強くこの病気とつき合っていくということです。そうしていくうちに皮膚の炎症は徐々に治まり、必要最小限の薬で症状が軽い状態を維持することができるようになります。更に、長期的には、一般には慢性に経過するもの、適切な治療により症状がコントロールされた状態が続けば自然寛解も期待できます。つまり治ったも同然の生活が送ることができるということを、目標にすべきなのです。
では、適切な治療とはどういったものでしょうか。
アトピー性皮膚炎の治療の基本は、炎症、痒みに対する薬物療法、スキンケア、原因や悪化要因の検索と対策の三本柱から成り立っています。炎症に対してはステロイド外用療法を主とし、痒みに対しては抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬を補助療法として併用します。これと平行し、皮膚の生理学的機能異常(乾燥肌、敏感肌)に対して皮膚の清潔保持、保湿剤外用など含むスキンケアを行います。更に外的刺激、アレルゲン(アレルギーの原因となるもの)、ストレスなどの悪化因子を可能なかぎり除去し、生活を改善していきます。
これがアトピー性皮膚炎の治療の基本なのです。
日本皮膚科学会では3年前に治療のガイドラインを発表しています。
このガイドラインが作られた理由は、治療の大きな柱であるステロイド外用剤に対して根拠に乏しい不信感が社会一般に生じ、その結果ステロイド外用剤忌避の風潮が強まり必要かつ適切な治療を施せないままに重症化した患者さんが増加しているからなのです。

2020年08月24日

「アトピー」という言葉

「アトピー」という言葉の語源はギリシャ語のATOPOSに由来しており、「奇妙な」「不思議な」「とらえどころのない」と言った意味です。
1923年、家族内・家庭内に発生する奇妙なアレルギー病を指し、先天的に過敏症を起こしやすい体質のことを「アトピー」と名づけられました。
1933年アメリカの皮膚科医ザルツバーガーは、体質性湿疹、内因性湿疹などと称されていた病気がアレルギー病の範疇に入るとして、これらを一つにまとめて「アトピー性皮膚炎」という病名を提唱しました。
現段階でアトピー性皮膚炎という病気を最も端的に示しているのは、『アトピー性皮膚炎は、増悪・寛解(良くなったり、悪くなったり)を繰り返す、痒みのある湿疹を主病変とする
病気であり、患者の多くはアトピー素因をもつ。』という1995年に日本皮膚科学会が示した定義でしょう。
「アトピー素因をもつ」というのは、「気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎のいずれかの既往歴(これまでに患ったことがあるということ)があるか、家族にもそれらの病気にかかった人がいる。
そしてIg-E抗体(アレルギー疾患で高値を示すことが多い血液中の成分)をつくりやすい体質」ということです。

2020年08月17日

「アトピー性皮膚炎」について

アトピー性皮膚炎はなかなか治せない、もしくは治りにくいと言われている病気のひとつです。一般に皮膚の病気というのは、目に見えるため、精神的な苦痛を強いられることが多いものです。アトピー性皮膚炎もその例外ではなく、日常生活に支障をきたす場合もありますさて、一言でアトピー性皮膚炎といっても、その症状は様々ですし、原因や悪化要因も多岐にわたっております。
更に昨今の情報の氾濫から、治療に関する考え方に混乱が生じているのが現状です。
ここで、改めて、アトピー性皮膚炎という病気を見直してみましょう。

2020年08月11日

「ニキビ」について PertⅡ

前回に引き続き、「ニキビ」について少しお話をしたいと思います。
外来診療を通じて、ニキビで悩んでらっしゃる方がこれ程多いものかと、痛感する日々をおくっております。
一般的なニキビの治療は、主に内服治療と外用療法で、更に、食生活も含めた生活指導を加えるというものでした。
しかしここにきて、ニキビ治療に、新たな手法が加えられてきています。そのひとつが「ケミカルピーリング」という方法です。皆様もどこかでこの「ケミカルピーリング」もしくは「ピーリング」という言葉を耳にしてらっしゃるかもしれません。
「ケミカルピーリング」とは、皮膚にある種の化学物質(ピーリング剤)を塗布し、その作用により皮膚の表面を一定の深さではがし落とす治療のことを言います。ニキビに対して「ケミカルピーリング」を行う理由は、ニキビの初期の状態もしくは前段階である、白ニキビの発生を予防する目的や、赤く化膿したニキビから膿が出るのを促すといった目的があるからです。また、「ケミカルピーリング」に使用する薬剤によっては、いわゆるニキビ痕を平坦にし、目立たなくする効果も期待できます。
しかしニキビだからといって、何が何でも「ケミカルピーリング」というわけではありません。大部分のニキビは一般的な治療で十分コントロールできます。しかし、残念なことに、中には一般的な治療に反応しにくいニキビを患ってらっしゃる方もいらっしゃいます。そういった場合に、「ケミカルピーリング」を試す価値があると思います。
「ケミカルピーリング」は決して万能の治療ではありません。注意して頂きたいのは、副作用がないわけではないということです。起こりうる副作用として、治療後に赤みや痛みが続くこと、炎症後の色素沈着や痂皮(かさぶた)ができてしまうこと、さらにはニキビそのものが一時的に悪化することもありますし、ヘルペス(ウィルスによる病気)が起こってしまうこともあります。ですから「ケミカルピーリング」を受ける際には、その効果のみならず、副作用についても十分説明を受ける必要があります。
ひと昔前までは、「ニキビは青春のシンボル」などと言われ、いつのまにか治っているものでした。しかし、最近ではいつまでたっても治らないニキビが増え、一般的な治療に反応しない方も中にはいらっしゃいます。そのために、学校や仕事に行きことが出来なくなったり、効果が定かではない自己治療を行ってしまったりして(それに多額の費用を注ぎ込むこともあるようですが)、精神的に追いつめられることも少なくありません。
ニキビ治療にはまだまだ可能性があります。ですから、一人で悩まず、是非とも一度皮膚科を受診し、相談してみて下さい。

2020年08月03日

「ニキビ」について PertⅠ

日々の診療の中で、多くの方からニキビについての相談を受けます。
そこで今回はこのニキビについて少しお話をしたいと思います。
皆様は「アバタも、えくぼ」という言葉をご存知でしょうか?愛してしまえば、欠点さえも好ましいものに見えるという意味です。この「アバタ」は天然痘の痕(あと)のことを指します。天然痘にかかると、顔に発疹ができ、発疹の痕、すなわちアバタが残ってしまいました。アバタを醜いと感じる人が多かったため、それは相当なコンプレックスになっていたようです。かの文豪夏目漱石もアバタがあったと言われています。
最近はニキビの痕を指してこう呼ぶ人もいるようですが、ニキビができた人に残っているのは「アバタ」ではなく、「ニキビ痕」と呼ぶほうが正確です。
ニキビの予防と治療のなかで、皆様が気にされる事の一つに食事があると思います。まず大切なのは、言うまでもなく規則正しいバランスのとれた食事をすることです。
更にその中でも

①ビタミンを摂る。
②食物繊維を摂る。
③飲酒を控える。
④甘いものを控える。
⑤脂っこいものやナッツ類を控える。

ということが重要です。
①のビタミンの中で、ビタミンA、B2、B6、Cが大切です。納豆やうなぎ、レバー、いわし、緑黄色野菜等をお勧めします。勿論、ニキビと食事との関連は個人差が大きく、一概に食事だけを気をつければ良いわけではありません。
皮膚科専門医を受診し適切なアドバイスと治療を受ける事が大切です。
世界保健機関(WHO)は1967年から天然痘撲滅へ向け動き出し、1988年ついに撲滅宣言を出しました。天然痘がなくなった現在、本当の意味でのアバタはなくなってしまうことになります。となると、「アバタも、えくぼ」は「ニキビ痕も、えくぼ」とでも言い換えなければならないかもしれません。

2020年07月27日

「イボ」について

今回は「イボ」についてお話をしたいと思います。
皆様は「イボ」と聞いてどういうものを想像されるでしょうか?
一般的に「イボ」という言葉は広く、皮膚に生じた「できもの」を指して使われているよです。例えば、首の周りにブツブツとできる薄茶色のもののように。しかし、皮膚科でいう「イボ」は正確には「疣贅(ゆうぜい)」と言います。
これは、ヒトパピローマウィルスというウィルスによってできる、良性の腫瘍なのです。
お子様に多い「水イボ」もこのようなウィルスの一種(正確にはポックスウィルス科の伝染性軟属腫ウィルス=でんせんせいなんぞくしゅウィルス)が感染して起こる病気です。
さて、この「イボ」ですが、お子様の足の裏にできやすいのを御存知でしょうか?
足の裏に「うおのめ」ができたといって病院にいらっしゃるお子様が結構多いものです。
こういったお子様のほとんどが、実は「うおのめ」ではなく、「イボ」なのです。
この「イボ」、すなわち「疣贅(ゆうぜい)」はウィルスによってできるものですから、伝染してしまうことがあります。お子様が気になっていじっているうちに、手などに拡がってしまうこともたびたび見うけられます。
それでは、どうやって治療すればいいのでしょうか?一般的には、液体窒素というものを用いて、「イボ」を冷凍凝固させるという治療を行います。ただ、これは少し痛みを伴いますので、我慢が必要です。その他に皮膚を柔らかくする貼り薬を使用する場合もあります。
更には、麻酔をして切り取る手術もあります。
しかし最近は「モノクロロ酢酸」という化学物質を使用し、表面を溶かしていくという治療方法も確立されてきました。この方法だと、極めて短い時間で治療は終了しますし、痛みはほとんどないと言っていいほどありません。
治療方法という意味では少しずれるかもしれませんが、この「イボ」は以外と暗示だけで治ることもあります。治る、治ると信じていれば、自然になくなってしまうことがあるのです。そのため全国には「イボとり地蔵」なるものが存在しているそうです。
この現象は、人の免疫力に関わっている、NK細胞活性(エヌケイさいぼうかっせい)というものが高まるためと考えられています。
これから暑い季節がやってきます。裸足になる機会も多いかと思います。
お子様の足の裏をちょっと覗いて見てはいかがでしょうか?

2020年07月21日

「水虫」について

「水虫」はありふれた病気です。では、いったいどんな病気なのでしょう?
「水虫」はカビの一種である、皮膚糸状菌(ひふしじょうきん)の感染によって起こります。この菌は白癬菌(はくせんきん)とも呼ばれています。ですから「水虫」のことを、足白癬(あしはくせん)といいます。
足白癬以外にも、体部白癬(たいぶはくせん)や股部白癬(こぶはくせん)という病気があります。これらの通称は、タムシ、インキンタムシです。つまり、タムシやインキンタムシというのは、「水虫」と同じ白癬菌によって起きる病気なのです。
実は「水虫」やタムシ、インキンタムシの原因である白癬菌は、皮膚の一番外側の角質層(かくしつそう)や手、爪などに存在する、ケラチンというタンパク質を栄養源として増殖しているのです。さて「水虫」ですが、その症状は様々です。
以下がその分類です。

① 足の趾(ゆび)の間がむれてジュクジュクし、かゆくなる、趾間型(しかんがた)
② 小さな水ぶくれができる、水疱型(すいほうがた)
③ 皮膚が硬くなり、ひび割れを起こす、角質増殖型(かくしつぞうしょくがた)
④ 爪が白く濁り、分厚くなったり、ボロボロと崩れたりする、爪白癬(つめはくせん)

このうち、角質増殖型と爪白癬はかゆみがなく、気付きにくく、更にそれが「水虫」であるという認識がないため、放置されることが多いようです。
逆に「水虫」だと思っていて、実は違うものも結構あります。
主なものとして、湿疹・皮膚炎や汗疱(かんぽう)、掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)といった病気があります。これらに対して、いくら「水虫」の薬を塗っても良くなりません。「水虫」の治療で重要なのは、それが、「水虫」であると診断することです。
その上で適切な治療を行う必要があります。
治療方法は塗り薬が中心になりますが、治りづらい爪白癬や角質増殖型のものには飲み薬を使用する選択肢もあります。

2020年07月13日

何もしないスキンケア?

皆さんは、お肌がカサカサしているなと感じたことはないでしょうか?
今回、以外と知られていない、お肌の手入れ方法についてお話したいと思います。
皮膚の潤いを決める要素が3つあります。
それは、①皮脂(ひし)②角質細胞間脂質(かくしつさいぼうかんししつ)③天然保湿因子(てんねんほしついんし)です。
人の皮膚は角質(かくしつ)という硬い殻のようなもので覆われており、個々の角質細胞はレンガを積み上げたような構造をしています。その表面を皮脂(毛穴から分泌されています)が包み込んでいるのです。更に角質細胞の間にはセラミドという物質を中心として脂質が充満しています。また、角質細胞の中にはアミノ酸を中心に天然保湿因子が存在しています。これらの働きによって、お肌の潤いが保たれているのです。
お風呂で行うことが多い「垢こすり」、かつての1ヶ月に数回しか入らないような入浴習慣ですと、実際に垢が皮膚の表面にたまり、強くこすることに意味があったと思います。
しかし現在の日本における、ほぼ毎日入るような入浴習慣では、こするという行為は、皮脂を洗い流し、いたずらに皮膚をそぎ落とす行為でしかないのです。
このことにより、皮膚のバリア機能は著しく阻害されます。その上、皮膚が水と接触し続けると(長湯を続けると)、潤いを決定する要素の1つである、天然保湿因子が流れ出てしまうのです。お風呂に入ってきれいにしているつもりの行為は、実は外来刺激が侵入しやすいような状態にしてしまう行為なのです。
カサカサ肌をつくらないためには、できればタオルを使用せず、石鹸を手で泡立て、優しくなでるように洗う。これが一番なのです。
何もしないかのような、このスキンケア、皮膚を健やかに保つ秘訣です。
物足りないと思われるかもしれませんが、実践してみて下さい。

2020年07月06日

たかが皮膚!されど皮膚!

私たちにとって皮膚は気にとめなければ、そこにあるのが当たり前の、あたかも空気のような存在なのではないでしょうか。しかし、本当にそうでしょうか?皮膚はただ単に体を覆い、体内を機械的に守る「皮」なのでしょうか?答えはNOです。
皮膚は外的から身を守る、バリアーの役割を担うだけではなく、汗を分泌し、その量を調節して体温調節に一役買っていたり、積極的に免疫活動を営んだり、また時には内臓で起こっている異常を映し出す鏡の役割を果たしたりと、種々の機能を持った生命にとって欠かすことの出来ない重要な臓器の一つです。
また皮膚を「肌」と表現することからもわかるように、人と人とのコミュニケーションにおいて欠かすことの出来ない役割も演じています。それだけに、いったん皮膚に障害が発生すると、肉体的な負担が生じるだけではなく、その影響は全身に及び、心理的な負担も重大になってきます。
この皮膚の障害によって生じた心理的な負担はその人にしかわからないことが多いと言えるのではないでしょうか。「なんだ、そんなことぐらいで」や「たかが湿疹だろ」などと片付けられてしまうことがちょくちょく見受けられます。しかし、そもそも「病(やまい)」とは、その人が感じる苦痛全てを指すものです。軽んじられるものなどないはずです。
我々「やなせ皮フ科クリニック」では、ともすると、なおざりにされがちな、皮膚の「病」に対して少しでも力になれたらという思いで日々の診療にあたり、地域に根差した医療を実践すべく、頑張っていきます。
どうぞ宜しくお願い致します。

2020年06月29日