トリカブトの話
皆さんはトリカブトをご存じでしょうか?
トリカブト類はほとんどが猛毒で、北半球全体に広く分布しています。
毒の強烈さは植物界で最強と言われています。
トリカブトは古代から矢毒の原料として使われるなど、人間の歴史と深くかかわっています。
日本でもトリカブトが猛毒であることは古来知られていました。
今昔物語集には、このトリカブトが記された話がありますし、トリカブトを題材にした狂言「附子」は太郎冠者と次郎冠者が登場する、教科書にも採用されている有名な話です。
また、東海道四谷怪談に出てくるお岩さんが命を絶ったのはトリカブトを使っていたようです。
トリカブトの毒は葉や花にも含まれていますが、特に含有量が高いのはイモ状の根です。
漢方治療においては古くから、この根を使います。
親イモと子イモに相当する母根と子根とがあり、このどちらを使うか、また処理方法の違いなどにより「附子」「鳥頭」などいくつかの呼び名があります。
トリカブトの猛毒成分は「アコニチン系アルカロイド」という名前の物質です。
これをせんじると分解されて毒性が弱くなり、痛みを止めたり、新陳代謝を高めたりする化学物質に変化します。
新陳代謝を活発にし、体を温め、痛みを止めるという目的において重要な生薬です。
特に全身の機能低下がある高齢の人や、リウマチなど慢性消耗性の病気の漢方治療には非常に有効です。
皮膚科領域でも、冷えて悪化するアトピー性皮膚炎やニキビ、帯状疱疹に伴う痛みの治療に、附子つまり、トリカブトを含む漢方薬を使用するケースは少なからずあります。