治療において重要なスキンケア
ほんの10数年前までは、アトピー性皮膚炎の原因はアレルギー説一辺倒でした。
しかしアレルギーだけではどうしても説明がつかない患者さんを前にし、別の視点からアトピー性皮膚炎を捉え直そうという動きが高まってきました。
これはアレルギー性疾患としての側面を否定するものではなく、角度を変えて考えることで、治療への突破口がみつかるのではないかという期待があったからです。
アトピー性皮膚炎には、アレルギー素因と皮膚素因の両者がからんでいます。
アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚は乾燥してカサカサになる傾向があります。これは、アトピー性皮膚炎の患者さんの角質層(皮膚の表面を覆っている部分で、個々の角質細胞はレンガを積み上げたような構造をしています)において、各角質細胞の間をうめる脂質(セラミドという物質が主成分)が減少していることが多いからです。
このことにより、外来からの物理的刺激(ほこりや汗など)に敏感になり、痒み→炎症の原因になっていきます。つまり、皮膚のバリア機能が低下していると言えるのです。
ではなぜ、バリア機能に異常が生じるのでしょうか?これはかなり解明がすすんでいます。セラミドは酵素の働きによって体内で合成されますが、アトピー性皮膚炎の患者さんでは、別の酵素によってセラミドとは違う物質がつくられてしまっているのです。
原因はおそらく、遺伝子の問題だろうと推測されています。つまり、最初から乾燥しやすい肌の人がアトピー性皮膚炎の患者さんには多いということです。
したがってアトピー性皮膚炎の治療において、スキンケアは重要な意味をもってきます。
例をあげてみましょう。入浴時に行うことが多い「垢こすり」かつての入浴習慣(1ヶ月に数回しか入らないような)ですと、実際に垢が皮膚の表面にたまり、強くこすることに意味があったのでしょうが、現在の日本における入浴習慣(たいがいの人はほぼ毎日入浴していると思いますが)では、こするという行為はいたずらに皮膚をそぎ落とす行為でしかないのです。このことにより、皮膚のバリア機能は著しく阻害されます。
清潔にしているつもりの行為が、実はかえって皮膚を外来刺激が侵入しやすいような肌にしてしまっている行為になってしまうのです。
但し、これは、体を洗うことが良くないと言っているわけではありません。当然、その日についた汚れや汗は落とす必要があります。皮膚を清潔に保つのは必須のことです。
こするのはだめだけれど、きれいにする必要がある。この矛盾するようなことを実践しなければならないのです。
更に、入浴後はその人その人にあった保湿剤を塗る必要があります。
こういったスキンケアこそが、アトピー性皮膚炎の治療の出発点として最も重要なことのひとつなのです。